どうなるTPP? 混乱に乗じる中国、リスク回避に走る各国…トランプ氏心変わりの可能性も!?
米大統領選でTPP反対の立場を取るドナルド・トランプ氏が勝利したことで、アメリカがTPP協定を批准する可能性がきわめて低くなってきた。ペルーの首都、リマで開かれたAPEC首脳会議では、安倍首相を初め、多くの首脳が保護主義の風潮の高まりを懸念しTPPの重要性を訴えたが、アメリカ抜きでは発効は無理とあきらめムードも漂った。消滅の危機にあるTPPの行く末について海外メディアはどのように見ているのか。
◆TPP消滅の危機で脚光を浴びたのは?
フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、オバマ大統領のもと、「アジアへの回帰」とTPPを掲げたアメリカは、長らくAPECの指導的役割を果たしてきたが、リマのAPEC首脳会議でスターとなったのは、中国の習近平主席だったとしている。豪スカイ・ニュースによれば、中国はアメリカの貿易政策の混乱を利用しようとしており、中国が主導しアメリカが不在の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)が、やがてアジア太平洋地域の自由貿易圏が形成されるうえで、唯一の解決策となるだろうと主張している。
実際に中国に傾く国は多く、トランプ氏当選という力学の変化で各国はリスクヘッジに動いており、中国シフトは明らかだと一部のAPEC関係者が述べている(FT)。
◆TPPが持つ貿易協定以外の意味
もっとも、各メディアはRCEPがTPPの代わりになれるとは見ていない。ピーターソン国際経済研究所のシニアフェロー、ジェフリー・ショット氏は、貿易のかなり敏感な部分にまで入り込んだ野心的なTPPのほうが、RCEPより経済的見返りはずっと大きいと指摘する。そこが、RCEPに参加している16ヶ国のうち7ヶ国が、TPPにも参加している理由だとフォーブス誌に述べている。
それだけに、TPP参加国の落胆は大きい。ニュージーランドの首相は、「そもそもTPPは環太平洋地域でのアメリカの指導力を示すもの。我々はそれを望んでいたが、アメリカがいなくなればその穴を埋める必要があり、それを埋めるのは中国になる」とアメリカに警告している。元米外交官のエバン・フェイゲンバウム氏は、日本やインドなどは中国のリーダーシップに抵抗するだろうが、いずれにしてもルールを他者に設定されることでアメリカは敗者となり、その影響力は衰えるとしている(FT)。
◆アメリカに参加の道は?
TPPの未来に悲観的な報道が多いなか、USAトゥデイ紙はまだ望みがあるとしている。実は、TPP推進派の米商工団体の元ロビイスト、ロルフ・ランドバーグ・Jr氏がトランプ氏の政権移行チームに入ったという情報があり、同紙はランドバーグ氏の働き掛けで、トランプ氏がTPP存続に動き出すかもしれないと説明している。
同紙によれば、製造業がアメリカ経済の中心であった時代は遠い昔で、現在は5人のうち4人のアメリカ人がサービス業に従事している。コンサルティング、旅行、ITサービス、特許や著作権などの分野を含むサービスにおいては、アメリカは世界最大の輸出国で、2015年には7510億ドル(約85.1兆円)を輸出し、サービス分野で2620億ドル(約29.7兆円)の貿易黒字を出している。TPPは、サービス分野の輸出に関する規制や問題解決において大きな助けになると見られているだけに、年4%の成長を公約に掲げたトランプ氏にとって、「自由貿易」と「公平な貿易」が同時に存在し得ることをランドバーグ氏から学ぶことは、決して悪い話ではないと述べている。
一方、前述のショット氏は、アメリカ抜きで他の参加国が各自TPPの批准手続きを進め、アメリカがどうするかを決めるまでは、暫定的に参加国内で合意を適用してしまう手もあると説いている。同氏は、アメリカは最終的に参加を決めるかもしれないし、または将来的に自国の利益となる改訂を交渉してくるかもしれないとし、トランプ政権で実現しなくても、米参加の扉は開いておくべきだとしている(フォーブス)。