初の融資案件から見えるAIIBの思惑 日米の疑念の払拭、堅実な実績作りに注力?
中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は24・25日、本部のある北京で初の年次総会を開いた。その最初の融資活動として、4事業、総額5億900万ドル(約518億円)の融資計画が発表された。AIIBの創設メンバーは57ヶ国となったが、現在、さらに24ヶ国が参加を希望しているという。日本、アメリカは運営体制や方針への疑念から参加を辞退している。
◆既存の国際金融機関との協調路線で穏健な滑り出し
AIIBの最初の融資対象の4事業は、インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙(INYT)によると、バングラデシュの地方部の送電網の拡大、インドネシアの貧困地区の生活環境の改善、パキスタン、およびタジキスタンでの道路改良事業だ。
注目すべきは、このうちバングラデシュ以外の3事業は、すでにアジア開発銀行(ADB)、世界銀行、ヨーロッパ復興開発銀行(EBRD)からの融資を受けている点だ(INYT)。これにより、AIIBは既存の国際金融機関に対抗することを目指しているのではないか、という見方が緩和される。AIIBは波風の立たない、穏健なスタートを切った。
INYTはこれらの4事業を比較的穏当と評する。同紙によると、AIIBの金立群総裁は総会で、これらの事業は財政的に堅実で、環境に優しく、地元住民の合意をすでに得ているものだと語った。なお金総裁はADBの副総裁を務めた経歴がある。
◆中国の野心実現の手先機関、という欧米メディアの見方
AIIBが初融資に当たり、このようなアプローチを取ったのは、欧米などの警戒視を十分に意識してのことだっただろう。
AIIBを中国の野心実現の道具とみなす見方は、欧米メディアの間でありふれている。例えばブルームバーグは、AIIBは世界情勢でのより大きな影響力と、近隣国とのより深い経済統合を得ようとする中国の習近平国家主席の野心にとって中心的だ、と語る。またBBCは、AIIBは世銀のライバルとみなされており、またアメリカの世界的優勢に対する中国政府の挑戦の一環とみなされている、と語る。
つまり中国にとっては、大きく分けて、世界、特にアジアでの影響力でアメリカをしのぎたい、という政治的理由と、現代のシルクロード、「一帯一路」構想を通じて自国経済の活性化を図るという経済的理由が、AIIBに込められているとみられている。
BBCは「一帯一路」構想について、だいたいのところかつてのシルクロードに沿って、中央アジア中の中国の近隣国を開発するという計画で、それによって中国は、自国企業のための投資機会と、自国製品の市場を作り出す、と説明している。そして、AIIBが今回融資を行おうとしている国はいずれも、この計画にとって密接だ、と指摘している。フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、中国政府はAIIBなどの新機関を通じて、ユーラシア大陸をまたぎ、その先まで「新たなシルクロード」を建設するという野心的な計画を推進している、と語る。
◆AIIBも中国も独立性を強調、ふさわしいガバナンスを身に着ける構え
それに対して、AIIB側は、中国の意向から独立した機関であることを強調しようとしているもようだ。ロイターは、AIIBが総会で、他の開発銀行と協力し、新たな参加国を迎え入れるつもりだと発表し、中国からの独立性を強調した、と伝えた。INYTによると、金総裁は25日の記者会見で、AIIBは中国の発案であるとはいえ、アジア全域の発展を活気づけるために必要な、基礎となる建造物と施設の改善に専念する国際銀行として活動するよう意図されている、と語った。
そのためには、国際金融機関としてしっかりしたガバナンスが必要だ。ロイターは、AIIBが、ガバナンスの国際水準を満たすことを目指していると発表したことを伝えた。
中国自身もAIIBのそういったあり方を強調している。中国の張高麗筆頭副首相は総会の開会式で、AIIBにとって国際機関の手続きとルールに従うことは極めて重要だ、と語った(ロイター)。同氏は「AIIBは他の国際機関の成功の経験から学び、世銀、ADBその他の機関と緊密な関係を築かなくてはならない」と誓約したが、金総裁もこの弁を繰り返したという。
ダニー・アレクサンダー副総裁は「中国は他の出資国と同様、私たちが設定しつつあるガバナンス水準と、運営にまつわる透明性について、非常に協力的だ」と語った(ロイター)。ちなみに、AIIBの副総裁は5人いるが、アレクサンダー氏はイギリスの元財務省首席担当官で、INYTは、イギリスがアメリカの反対にもかかわらずAIIBを支持したため、その見返りとしてこのポストが与えられた、と解釈されたと伝えた。
◆既存機関との協調路線でも中国にはメリットがある?
アメリカは2014年に参加を呼びかけられた際、AIIBが環境保護、人権問題、反汚職対策で、必要とされる水準に達するか不確かだと主張し、参加を拒んだ、とINYTは伝える。しかしオバマ政権が最も心配していたのは、AIIBが、第2次世界大戦後にアメリカのリーダーシップ下で確立されたブレトンウッズ体制に挑むようになることだった、と同紙は語る。
それに対してAIIB側は、アメリカの警戒をなだめるような動きを取ってきたようだ。この1年、金総裁は主として世銀、ADB、EBRDがすでに承認済みの事業を選ぶのに合意することで、米政府を安心させるよう努めてきた、とINYTは語る。金総裁はまた、AIIBがより能率的になり、「無駄がなく、グリーン(環境に優しい)でクリーン」になるよう懸命に努めることも強調しているという。オバマ政権の高官らは、定評のある機関およびそれらの基準制度と協同するというAIIBの決断を称揚しているそうだ。
AIIBが他の国際金融機関の融資事業を後追いするのには、スタッフ数が少ないという事情もある。INYTによると、いまのところ、AIIBには常勤の専門職員が39人、契約に従事する職員がおよそ20人いるが、これは大規模な契約の監督を計画している国際銀行としては、他と比べて人数が少ないという。ある職員によると、年内に約100人まで増えると予想されているそうだが、それでも資本金1000億ドル(10兆1822億円)という規模からすると少ない。
金総裁は、世銀、ADBを含む金融機関との共同融資事業はきっと常態となるだろう、と語っている(ブルームバーグ)。その理由は、1つの事業に巨額を1機関で融資するのは良い考えではないからだという。
今後もAIIBが国際金融機関との協調融資を続けるのであれば、アメリカや日本には、AIIBに反対する積極的理由が見つけづらくなってくるかもしれない。その間に、AIIBは、穏当な協調融資事業でも、中国に経済的利益をもたらしつつ、実績を積み上げていきそうだ。ただしそれも、中国の政治的代弁者としての馬脚をあらわすまで、という可能性はある。