空前の日本産ウイスキーブーム、海外も気になる商品の枯渇…品薄は産業構造に問題あり?
数々のコンテストで栄冠に輝き、いまや世界最高峰ともいわれる日本産ウイスキー。NHKの朝ドラ「マッサン」効果やハイボール人気も手伝って国内消費も伸びており、世界的に品薄、高値が続いている。一部商品はすでに原酒不足から販売終了となっており、ブームの先行きを不安視する声も出ている。
◆海外で大人気。記録的売り上げ
酒類の業界誌「Spirits Business」は、日本のウイスキーは2003年以来、伝統的にスコットランドの蒸留所が占めてきた賞を次々と勝ち取り、そのたびに消費者とコレクターの興味をあおってきたと述べる。欧州の企業が日本の蒸留所との契約締結を競い合い、レア物の日本産が驚くような価格で取り引きされることも珍しくなくなったとし、埼玉県秩父で作られたベンチャーウイスキーの「カードシリーズ」全54本が、昨年10月に香港のボナムズのオークションで、5100万円で落札されたことを紹介している。
サントリーやニッカなど大手のウイスキーも、海外のコンテストやガイドブックなどで高い評価を得ており、日本産ブームに拍車をかけている。欧州22ヶ国に販売網を持つフランスの販売会社『Les Whiskies du Monde』のアルノー・ポントイゾ氏は、この1年で販売量は倍増したと述べ、2016年にはさらに倍増するだろうと述べている。(Spirits Business)。
国際市場調査会社、ユーロモニターの調べでは、2009年から2014年の世界のウイスキー製造国における生産量は平均5%増だったが、日本は5.6%増を記録した。ほとんどは国内で消費されているが、昨年は海外での売り上げが104億円と記録的数字に達し、過去10年間で11倍の増加となっている(ブルームバーグ)。
◆今のままではブームは持続不可能
過熱する日本産人気に、海外は商品「枯渇」の懸念を示している。ポントイゾ氏は、日本産ではエイジドと呼ばれる年数表記品の需要が高いが、一部のブランドを除いてほとんどストックがないと話している。「Spirits Business」によれば、実は2015年の6月に、ニッカが余市、宮城峡蒸留所のモルトウイスキーを使用した14品目のエイジド品を商品リストから外しており、原酒不足が生産に影響している。
限定41本発売で1本200万円のウイスキー『軽井沢1960年』を2013年に発売した英ナンバーワン・ドリンクス・カンパニーの代表マーチン・ミラー氏は、品薄は短期的需給の問題というよりも、日本のウイスキー産業の構造的問題だと説明する。同氏は、日本の蒸留所と販売会社は少なすぎると指摘。スコットランドでも1980年代に複数の蒸留所が閉鎖されたが、他の蒸留所がそれを補うだけの生産を続けたとし、稼動中の蒸留所が数ヶ所しかないことが日本の問題だと述べている(Spirits Business)。
価格の上昇も懸念されている。特に、2016年は円高に振れるとされているため、値段が新たな消費者獲得の障害になるのではと危惧する輸入業者もいる。もっとも、「Spirits Business」は、最近のウイスキーファンは、熟成年数が必ずしもクオリティを意味するのではなく、シングルモルトがブレンドより優れているとは限らないことに気づき始めているとし、数種のモルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドしたサントリーの「響」など、NAS(no age statement、年代表記がないもの)商品の可能性にも言及している。
◆バブルが残した在庫、続々とあの国へ
一方、日本産ウイスキーの品薄と高値が、中国人観光客の驚くべき行動を呼んでいると、フィナンシャル・タイムズ紙(FT)が伝えている。同紙の調べでは、サントリーの「シングルモルト山崎25年」はネットで1本13万5000円の値がついているが、オンラインでも実店舗でもほぼ売り切れ状態だという。当然、このようなプレミアムウイスキーは中国でも人気があり、高額で売れる。
これに目を付けた中国人観光客が、数年前からレンタカーで首都圏郊外の小さな酒屋にやってきて、棚の上で埃をかぶったお宝ウイスキーの発掘にいそしんでいるという。これらの酒屋の店主はほとんどが年配者で、不景気と少子化で高価なウイスキーが売れないことから、日本経済が好調だったころ仕入れた在庫を大量にかかえているらしい。
もちろん自宅用として購入する中国人もいるが、販売を目的とする人が多いという。すでに首都圏の商品は買いつくされたのか、お宝探しは地方にまで広がっているとのこと。ウイスキーブームは、観光ブームに乗って、意外な現象をもたらしているようだ。