インド、初の高速鉄道に新幹線を採用か 近く合意と印紙 日本が提示した好条件とは?

 安倍首相は11日から13日にかけてインドを訪問する予定だ。首相として3回目の訪問となり、両国間の協力関係の一層の強化を図る。首脳会談では防衛協力や原子力協定が議題になるとみられる。インド初の高速鉄道計画について、日本との契約の発表がありそうだとの見方もある。

◆インド初の高速鉄道計画
 計画されているのは、ムンバイとアーメダバードを結ぶ高速鉄道路線である。インド紙エコノミック・タイムズ(ET)によると、505キロの距離を時速300キロ超で走り、現在7時間かかっている移動時間を2時間に短縮するものとなるという。ムンバイの地方紙フリー・プレス・ジャーナルは、インドにとって、日本で一番初めに大きな影響を与えた有名な東海道新幹線と同様のものとなるだろうと語っている。

 シンガポール紙ストレイツ・タイムズ(ST)によると、インド政府は4大都市を結ぶ総延長1万キロの高速鉄道網の建設を目指しているという。この路線網は「ダイヤモンド四辺形」と呼ばれるそうだ。だが、関係費用の高さのせいで難航しているという。

 ムンバイ-アーメダバード間の路線に関しては、日本の国際協力機構(JICA)が実現可能性を調査し、技術的に実現可能であり、採算がとれると結論した(ET)。その報告書は今年7月にインド政府に提出された。それによると、この計画の費用は9880.5億インドルピー(約1.82兆円)になると見積もられている。

◆日本は切り札として資金の融資条件を緩めるか
 ETは、安倍首相の訪印時に、日印両政府がインド初の高速鉄道の契約におそらく署名するだろう、高速鉄道事業についての契約を確定させそうだ、と伝えている。

 インド政府筋によると、日本側は建設、ルート決定、技術提供、車両調達支援などで役割を果たすことを提案しているという(ET)。

 海外へのインフラ輸出は安倍政権が成長戦略として非常に力を入れている分野だ。だがインドネシアの高速鉄道計画では、中国がインドネシア政府に対して財政負担も債務保証も要求しないという条件を提示したことで、中国に受注をもっていかれてしまった。

 なおSTによると、中国はインドの高速鉄道計画でも、JICAが行ったのと同様の実現可能性調査を他の2区間について行うよう、今年9月にインド政府から選定されたそうだ。

 これらを受けて、今回、日本側も手を打つようだ。ETはインド政府筋からの情報として、日本が9000億インドルピー(1.66兆円)を超える額を、償還期間50年、利率0.5%の長期低利貸付(ソフトローン)で融資することで合意しそうだと伝えた。通常、日本はこの種の事業については、利率1.5%、償還期間25年以内という条件で資金を融資する、と語っている。

 インド総理府のある官僚は、この条件は「インドにとって非常に魅力的だ」、「両国首相がそろって推進しているからこそ可能な条件」だと語っている。

 STは、インドネシアでは中国に敗れた日本は、インドでは今のところ(中国より)有利な立場にあるとみられている、と語る。そのすぐ後で、インド鉄道省のマノジ・シンハ閣外大臣が議会で、日本は「資金提供(融資)を申し出ている唯一の国」だと指摘したことを伝えている。融資の条件はインドにとっても重要であることがうかがわれる。ETでは先の人物が「これが引き金となって、他国もわが国のインフラ計画で利率を下げることを期待している」と語っているが、中国の高速鉄道計画への参加を念頭に置いた発言かもしれない。

◆インド国内で「高速鉄道は無駄」との反対も
 インド国内では、高速鉄道は無駄だとして反対する人たちもいるという。インドでは誰も彼もが高速鉄道を歓迎しているわけではない、とSTは伝える。大規模プロジェクトを選ぶよりも、既存インフラの改良、現在の鉄道網の安全性改善のほうがより必要だと反対派は主張しているという。

 ムンバイの交通政策について検討するNGO「ムンバイ環境ソーシャルネットワーク」の代表は、「移動時間を7時間から3時間(ママ)に短縮するためだけにそれほどの額を費やす必要があるのか。同等の額でもって他にする必要があることはたくさんあるし、結局は飛行機での移動よりも(運賃が)高いということになるだろう」と語っている。

 インドの鉄道事情についてSTが解説しているところによると、インドの鉄道網は中国に次いでアジアで2番目の大きさだという。毎日、延べ2300万人が鉄道を利用しているという。運賃は、貧しい人たちでも手が届く範囲にするために低額に抑えられているが、そのせいで鉄道網の開発・拡大の資金不足につながっているそうだ(インドでは鉄道は国有)。

 けれども賛成派は、インド国民は、結局は高速鉄道になじむようになるだろうと主張している(ST)。「デリーの地下鉄ができる前は、誰もが費用が掛かり過ぎると言っていたが、現在ではどの都市も地下鉄を欲しがっている。高速鉄道に関しても同じで、1つできればデモンストレーション効果があるだろう」と元鉄道省職員でアジア交通開発研究所の国際関係ディレクターのSumant Chak氏は語っている。

 もっとも、デリーの地下鉄はインドで最初のものではない。インドはそれ以前の地下鉄計画で予算や工期の大幅な膨れ上がりを経験しているため、地下鉄はコストが高いというイメージだったのかもしれない。

Text by 田所秀徳