日本の場合は「景気後退」ではない? 2期連続でGDPマイナス成長も… 特有の事情とは

 内閣府は16日、7-9月期の国内総生産(GDP)速報を発表した。実質GDP(季節調整済み)は前期比0.2%減、年率換算では0.8%減だった。4-6月期に続いてのマイナス成長となった。欧米メディアでは「2四半期連続のマイナス成長=景気後退」とする見方が一般的で、主要メディアではほぼ例外なく、「日本が景気後退に逆戻り」などの見出しが付けられた。その一方で、ここ数年の日本経済に何度か起きた状況を表現するのに「景気後退」の語はそぐわないと主張する記事もある。

◆予想を超えたマイナス成長
 年率換算で0.8%減という数字は、エコノミストの予想を超えるマイナス幅だったと多くのメディアが報じている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)のアンケート調査によると、エコノミストらの予想値は同0.3%減だったそうだ。またロイターは市場予想の中央値は0.2%減だったと伝える。

 この結果は「アベノミクスにとって打撃」、という論評の仕方も多く見られた。安倍首相のデフレ脱却、経済成長活性化の取り組みにとって新たな打撃である、と語るのはフィナンシャル・タイムズ紙(FT)だ。インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ紙(INYT)は、この景気後退が安倍首相の経済政策の批判者を元気づけるかもしれない、と語る。賃上げによる個人消費の拡大、企業の設備投資の拡大という中核の部分で、思うように事が運んでいないからだ。ロイターは、企業はその記録的な収益を賃上げにまわすことを依然としてちゅうちょしており、安倍首相が直面している困難を際立たせている、と語る。

 企業の設備投資の状況については、メディアから大きな注目が集まった。設備投資は前期比1.3%減で、2期連続のマイナスとなった。ロイターによると、市場予想の中央値は同0.4%減だったという。WSJも、エコノミスト予想の0.5%減よりもはるかに低調だった、と伝える。海外需要に対する懸念から、日本企業が支出を抑えているためだとエコノミストらは指摘しているという。

◆中身はそれほど悪くない? 企業の在庫整理が最大の下げ要因
 しかし、内閣府発表のデータを見るかぎり、それほど悪い状況ではなかったのではないか、との見方も多くのメディアで示されている。GDPの内訳を見ると、日本経済にはまだいくらか勢いが残っていることが示唆されている、とFTは語る。エコノミストらは、企業による在庫の削減がなければGDPはいくらか成長していたと思われるため、マイナス成長の数字を深読みしすぎないよう指摘している、とWSJは伝える。

 内閣府のデータによれば、企業の在庫変動がGDPを0.5%押し下げていた。日本経済新聞によると、在庫の影響を除けば、GDPは年率換算で1.4%増となり、0.8%減という数字ほど実態は悪くないと内閣府は分析しているという。ロイターでは、「在庫の大きな減少が、7-9月期の景気後退の原因となった最大の要因。企業の設備投資が低調なことは心配だが、これらの要素を除けばGDPのデータはそれほど悪くなかった」と農林中金総合研究所の南武志主席研究員が語っている。

 FTは、在庫減少と関連して、個人消費と輸出がGDPを押し上げていたことを伝える(内閣府によると、それぞれ0.3%、0.1%)。ロイターは、個人消費と輸出の回復によって、日本経済が不況から脱しつつあるという希望がいくらか示された、と語る。WSJは、個人消費が上昇に転じたことを「良い知らせ」として伝えた。

 けれども、同じ事態をINYTは、企業は(設備投資によって)生産量を増大させるよりも、在庫を減少させた、と伝えた。そのことを同紙は、企業が今後のより厳しい時期に備えているしるしだと捉えている。

◆日本の状況は、従来言われるような「景気後退」とは異なる
 欧米メディアでは、2四半期連続のマイナス成長をもって景気後退とみなすのが一般的である。これは明示的には「テクニカル・リセッション」と呼ばれるものであるが、単に「リセッション」と呼ばれることも普通である。見出しなどでは特にそうだ。WSJは景気後退の一般的な定義の一つと説明している。

 しかし、日本経済の状況を捉える上で、そのような定義は「時代錯誤で、誤解を招く」と指摘するのが、FTの東京編集局長ロビン・ハーディング氏だ。「景気後退」の定義には再考が必要、と氏は主張している。

「景気後退」は景気循環の過程で、経済が拡大から縮小に転じた局面である。しかしいまの日本は、そのモデルとは異なる理由でしょっちゅう景気後退に陥っている(またそこから脱している)、というのが氏の説明の趣旨のようだ。氏は、日本の景気後退は、アメリカのそれとは全く異なるもので、中国のそれとも異なっている、と述べ、今回の景気後退は「わずか5年間で4度目」だったという。INYTによれば、2008年の世界金融危機以降で5度目だという。

 日本がそれほど景気後退に陥りやすい理由は、人口が減少中で、そのせいで経済の潜在成長率がわずかしかないためだと、氏は端的に説明している。日銀の推計によると、日本の潜在成長率は「0%台前半ないし半ば程度」(0~0.5%程度)だという(ただし「相当の幅をもってみる必要がある」との注記がある)。これに対して、米連邦準備制度理事会事務局によると、アメリカ経済の潜在成長率は2%と見積もられているそうだ(FT)。氏はこれを、アメリカがプールから2メートル離れたところを歩いているとすれば、日本はプールのへりを歩いている、と例える。つまり、日本はほんのちょっと押されただけで、容易にプールに転落する(マイナス成長に転落)。他の国も高齢化するにつれて、日本と同じ問題を持つようになるだろう、と氏は語る。

 INYTも同様の説明をしている。日本経済の成長率は、最良のときであっても、他国よりも小さい。これは主として労働人口が減少しているためで、そのため、ささやかな妨げによってさえも、日本は容易にマイナス成長に転じる可能性がある、としている。

 ハーディング氏は、2四半期連続で潜在成長率よりも2%以上低かった場合を「景気後退」の新たな定義とすることを提唱しているが、同時にそれが難しいことも承知している。そこでかわりに、「景気後退」という語をもっと軽い意味で使うよう提案している。

 WSJは、「景気後退」は誤った印象を与えるかもしれない、と語っている。みずほ総合研究所の徳田秀信主任エコノミストはWSJで、日本の現在の状況を表現するのに、「景気後退」よりも「一時的落ち込み」の語がよりふさわしいと語っている。

Text by 田所秀徳