郵政グループ上場が重要な理由 海外投資家の日本企業に対する悪いイメージを変える?
日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の日本郵政グループ3社は4日、新規株式公開(IPO)を行い、東証1部に上場する。2005年10月に小泉政権下で郵政民営化法が成立して以来、曲折を経た民営化の仕上げとして、民間への株式売却が始まる。今回の公開分での調達額は合わせて1兆4362億円に及ぶ。規模の大きさも注目を集めたが、一部海外メディアでは、今回のIPO、ひいては郵政民営化が、日本経済の弱点克服を目的としたものだという点に大きな関心が寄せられている。
◆「リスクを取らないことのリスク」からの脱却
今回のIPOでは、郵政3社それぞれの発行済み株式の11%が売り出された。調達額は3社合わせて1兆4362億円に及び、日本では今世紀最大のIPO、世界的にも今年これまでで最大のIPOである。また日本では、1987年のNTT、98年のNTTドコモに次ぐ歴代3位の大型上場となる(日本経済新聞)。
今回のIPOでは、公開分の7割以上が国内の個人向けとして売り出された。安倍首相は今回のIPOで、個人投資の活性化により、一般家庭の貯蓄から、より多くが株式投資に向けられるようになるのを狙いにしているとブルームバーグは指摘し、注目した。
日本銀行調査統計局によると、2015年6月末時点で、日本全体の家計資産1717兆円のうち、52%が現金・預金だった。株式は11%に過ぎないが、アメリカでは34%、ユーロエリアでは18%だとブルームバーグが引用して述べている。
「リスクを取らないことのリスクを日本に気づかせるのは非常に良いことだ」と、世界最大の資産運用会社、米ブラックロックのポートフォリオ・マネージャーの1人、ダン・チャンビー氏はブルームバーグに語っている。
◆投資家の視線により企業経営が向上することを期待
今回のIPOでは、単に投資の活性化が期待されているばかりではなく、株式投資を通じて、企業運営の合理化や競争力の強化に、より多くの国民からの視線が注がれるようになることも、安倍政権は期待しているようだと海外メディアは指摘する。
ブルームバーグは、中曽根康弘元首相が1980年代、国民に株式保有のカルチャーを奨励して、国有企業をより効率的な組織にするために、民営化というアイディアを推し進めていた、と語る。また、郵政民営化を推進した小泉純一郎元首相は、無駄の多い歳出の削減を求めていた、と語る。
かつて郵政民営化には、雇用が失われる、一部の局が閉鎖されてしまう、という反対論があったとブルームバーグは伝える。しかし「現在、政治家と選挙民は、経済改革の必要性を認識しているため、郵政民営化はもはやそれほど論議を起こさない」と京都大学大学院経済学研究科の藤井秀樹教授はブルームバーグに語っている。スタンダード・アンド・プアーズの根本直子マネジング・ディレクターは「現在と、民有化が初めてはっきりと論議された当時との違いは、日本経済を取り巻く環境の変化だ」、「人口減少と景気減速の状況下、人々は日本が置かれている状況の深刻さを悟っている」と語っている。また藤井教授は、「日本は、あらゆる産業分野で国際的競争力を増加させるよう、10年前よりもさらに強いプレッシャーにさらされている」と語っている。
◆日本郵政グループが成功事例になれば、海外投資家が日本企業を見直す?
AFPはそういった論点をさらに押し進め、株主からの圧力によって日本郵政グループの経営に変革がもたらされるようになれば、他の日本企業にも、より多くの海外投資家の目が向くようになり、投資が増大するとの期待が一部にあると伝えている。
アナリストらによれば、株主からの圧力は、日本郵政グループに、意思決定のスピードアップ、コスト抑制を余儀なくさせるのに役立つという。そしてそのことが、悪名高い、日本企業の凝り固まった企業文化が大刷新されつつあるという、より範囲の広いメッセージを送ることにもなるかもしれない、というのだ。日本郵政グループの刷新の成功が前提となっている。
日本郵政グループには、コスト意識に欠けるという欠点がある、「しかし最大のリスクは、(経営の)スピード感に欠けていること――さながら巨鯨のようだ」と、ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストはAFPに語っている。
◆ゆうちょ銀行の今後に大きな変化が予想されている
今回IPOを行う3社のうち、177兆円超のばく大な貯金残高を有し(2015年3月期)、日本最大の金融機関であるゆうちょ銀行への関心が、海外メディアでは際立って高い。ブルームバーグによると、現在、貯金の約半分は日本国債で安定運用されている。また、リターンを増加させるために、他の有価証券に投資先をすでにシフトし始めているという。ブルームバーグによると、安倍首相はこの傾向がさらに進むことを期待しているという。
フォーチュン誌は、このIPOを行う大きな理由の1つは、現在ゆうちょ銀行に課せられている制約を撤廃することだと述べている。ブルームバーグは、(これまで民業圧迫になるとの理由で認められてこなかった)住宅ローン、法人ローンを始める許可をゆうちょ銀行は求めている、と伝える。この動きは、すでに供給過剰の日本の銀行業界に挑むものとなる、と語っている。
フォーチュン誌も、そうなれば地方銀行へのプレッシャーが増すことになり、いくつかの銀行の合併を引き起こすことにさえなるだろう、と語る。しかしフォーチュン誌はそれを前向きに捉えているようだ。市場ウオッチャーも、このIPOは、今後のさらなる経済改革と、消費支出の増大が起こりうることの前向きなしるしだと考えている、と同誌は伝えている。