日銀追加緩和は「ニュー・パール・ハーバー」? “通貨戦争”に海外識者が危機感
先月末に発表された日銀の追加金融緩和が、海外のエコノミストの間で波紋を呼んでいる。メディアに寄せられた識者のコメントには、「近代史上最大級の為替介入」という表現も見られる。さらに、世界経済を混乱させる「通貨戦争」につながるという見方や、これは日本による「経済的な宣戦布告」だとする『ニュー・パールハーバー』と題したレポートまで出ている。
◆円、ユーロ、人民元などによる「通貨戦争」の危機
日銀は10月31日、国債の買い入れを増やすなどして量的・質的金融緩和を押し進める追加金融緩和を発表した。黒田東彦総裁は、その目的を2%のインフレ率を達成し、物価を安定させるためだとしている。
これがなぜ、一部の海外識者から「通貨戦争」の“宣戦布告”と受け止められているのか?ロンドンに拠点を置くマクロ経済調査会社『ロンバードストリート・リサーチ』のダイアナ・コイレヴァ氏は、英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)に寄稿した記事で、アベノミクスの「第3の矢」は「いまだに矢筒に収まったままだ」と表現する。構造改革なき大規模な金融緩和は、リスクが大きいという見解だ。
同氏は、このままでは経済成長を伴わずに物価だけが上昇すると警告し、「それは危険な組み合わせだ」と記す。また、追加金融緩和によって勢いを増している円安について、たとえ輸出による利益が伸びても企業が内部留保を優先して労働者や市場に還元しない日本では、内需の低迷という不況の根本的な原因は解決しないと主張する。
そうした中、EUも日本に引きずられるようにして同様の金融緩和に踏み切りつつあり、輸出に依存する韓国も当然ウォン安を目指す。経済成長に陰りが見えている中国でも既に政府による景気刺激策は尽きており、「北京も通貨戦争に加わる」と同氏は予測する。同氏らが危惧するのは、そうなれば、主な世界通貨が安値を争う「通貨戦争」になるということのようだ。
◆日銀の政策は”ニュー・パールハーバー”?
債券格付け会社『クロール・ボンド・レーティングエージェンシー』の調査責任者、クリストファー・ウェーレン氏は、米誌『ザ・ナショナル・インタレスト』で、今回の日銀の動きを「近代史上最大級の為替介入」だと述べている。そして、「この決定は、他国の金融の安定を脅かす恐れがある」として、「経済的な宣戦布告」だと喩えている。
ウェーレン氏は、日銀のゼロ金利・債権買取政策はギャンブルだと指摘。特に、日銀の資産買い入れ計画に、国債だけでなく、不動産投資信託(REIT)、上場投資信託(ETF)といった個人資産も含まれている点を「恐ろしい可能性を秘めている」と危惧する。アメリカのサブプライムローン(低所得者向け住宅ローン)の崩壊に端を発した世界金融危機との構造的な類似性が示唆されるからだという。
記事はさらに、『ニュー・パールハーバー』と題した別の米エコノミスト、マイケル・レウィット氏のレポートを引用している。「10月31日に日本から出た声明は、世界経済に直接的な脅威を与えた。(中略)我々は、2008年の世界金融危機に始まった前代未聞の経験の次の段階に進みつつある。投資家は来襲する嵐に備えるべきだ」
◆「強いドルの復活」は世界経済を救うか
円安やユーロ安に比例するドル高の進行に注目する識者も多い。世界最大手の保険会社、アリアンツのチーフエコノミックアドバイザー、モハメッド・エルエリアン氏は、英ガーディアン紙に、『米ドルの復活』と題する解説記事を寄せている。
それによれば、円安などの相対的な要因だけでなく、「アメリカは絶えず経済の成長とダイナミズムの点でヨーロッパと日本を上回っている」点も、ドルに有利に働いているという。また、アメリカが世界金融危機以降に取ってきた経済政策も、日本などに比べて効果的だったと記す。
さらに同氏は、強いドルの復活は、通貨バランスの再調整の最初のステップだと記す。ただし、これが世界経済の再生につながるかどうかは「各国政府の対応に委ねられている」と慎重だ。前出のコイレヴァ氏もFTの記事で、円やユーロを始めとする国際的な通貨の下落はドルをより強くするが、それによって「ドルが早期にオーバーシュート」する事態を懸念する。そして、世界で唯一好調なアメリカ経済までもが「傷つくことがないように祈るばかりだ」と記している。