TPP交渉停滞は日本のせい? 英米紙、日米の深い溝を“最も厄介な懸案”と指摘

 環太平洋経済連携協定(TPP)の閣僚会合が、27日まで3日間、オーストラリアのシドニーで開かれた。閉会時、参加12ヶ国による共同声明では、今回の会合で「重要な進展」があったとされた。しかし、TPP交渉では、日米間の交渉が難航しており、年内合意に向けての最大の障害となっている。今回の会合でもその溝は埋まらなかったようだ。

◆日米のTPP2国間交渉は、相変わらず不調?
 甘利明TPP担当大臣は27日、アメリカのフロマン通商代表との会談を行った。会談後、記者団に対し、「相当な進展はあったが、日米間で課題は依然残されている」「まだ日米の決着は見通すことはできない」と語った。
フロマン代表もまた、「われわれは間違いなく、市場アクセスについて、日本との間に未解決の問題を抱えている」と述べている。この2人の発言を、フィナンシャル・タイムズ(FT)紙、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙、ロイターがそろって報じた。

 日本側が、牛肉や豚肉など農産物5項目の関税の取り扱いなどについて、留保を求めている一方で、アメリカ側は、自動車部品の関税撤廃について留保を主張している。このことが日米間で争点となっていることを、FT紙、ロイターは触れているが、どちらかといえばフロマン代表の主張を中心的に伝えている。WSJ紙は、日本側だけが市場開放に閉鎖的であるものとして、一面的に伝えている。

◆日米間の交渉の閉塞が、TPP交渉全体を失速させている?
 この日米間の隔たりを、ロイターはTPP交渉における「最も厄介な懸案」と述べ、今回の協議で、この件に関する進展は、何も起こる兆しがなかった、と伝えた。

 WSJ紙は、日本が自国の農産物市場、自動車市場を、世界貿易に開放することに乗り気でないことが、シドニーでのTPP交渉の進展を失速させた、と断定している。日本の市場アクセスについて透明性が欠如しているため、日米間協議の結果に左右される他の2国間協定の進展も妨げられている、と論じた。

 ロイターも、日米間の合意は、より広範囲な(TPP全体の)協定を確実にするために、極めて重大だ、とした。他の国は、日米両政府がお互いの市場へのアクセスをめぐって、どのように意見の相違を解消するのかを見るまでは、自らが約束することに乗り気ではないからだという。

◆アメリカがTPP交渉に臨む姿勢とは?
 TPPは、アジア全域での影響力を増大させようとするアメリカの戦略にとって重要なものである、とFT紙は語っている。ロイターも同様だ。WSJ紙は、この協議には中国が参加していないため、アメリカとアジアの国のいくつかは結び付きがより密接になっている、と指摘する。

 TPPに参加する12ヶ国は、年内の合意を目標としているとされる。FT紙は、アメリカのオバマ大統領が年内合意を強く主張していることを伝える。しかし、フロマン代表は、そういった締め切りに間に合わせようとすることよりも、交渉の中身が重要だとの立場のようだ。「重要なことは、大胆で包括的、高水準での合意を編み出し、それを達成することだ。そのために必要な時間は、いくらでもかけるつもりだ」との発言をFT紙は伝えている。WSJ紙も同様に伝えた。

 フロマン代表は、日本の農産物市場は世界で最も閉鎖的だと語っている(FT紙)。この問題について、じっくりと時間をかけて、日本側に譲歩を求める構えのようだ。安倍首相の提唱するアベノミクス「3本の矢」のうち、「第3の矢」として、安倍首相がしきりに宣伝している大胆な構造改革を、日本はまだ達成していない、とフロマン代表は語っている(WSJ紙)。

◆今後の見通しへの希望はまだ失われていない?
 TPP閣僚会合は、11月に北京で開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせて、再度開かれる方針だ。

 今回の会合の議長国オーストラリアのアンドリュー・ロブ貿易・投資相は、「大胆で包括的、高水準で公平な協定」が形をなしつつある、と述べた。交渉は「歩み寄りの段階」にあり、「ゴールに手が届くところまで来ている、という実感がある」と語っている(ロイター)。

 甘利大臣は、今後の新たな交渉を経て、日米両国はお互いに受け入れ可能な見解に達することができるだろうと期待している、と語っている(FT紙)。

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Text by NewSphere 編集部