TPP交渉、日米以外の10ヶ国は“傍観状態”と海外報道 合意形成に暗雲か

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)妥結に向け、19日に首席交渉官による会合が、豪キャンベラで行われた。25~27日には、通商閣僚会議がシドニーで開催される。オバマ米大統領は年内合意を目指しており、これが最後の調整の場になるとみられる。

 しかし、日米の合意は依然形成されていない。ペニー・プリツカー米商務長官が来日し、合意形成に向けての働きかけを行っているが、見通しは不透明だ。

◆日米間の対立が交渉を難航させている
 TPP妥結に際して肝となるのは日米間の関係だと海外メディアは見ている。フィナンシャル・タイムズ紙(以下、FT紙)は、交渉の遅れの主因を「緊張の高まりを終結できない日米」に置く。ビジネス・イン・バンクーバー紙(以下、BIV紙)も、交渉のこの段階では、日米を除くTPP参加国(10ヶ国)のほとんどが傍観者となると述べている。

 両紙ともに、交渉を難航させている原因は、農産品や自動車を巡る、日米の利益相反だと見ている。特にBIV紙は、日本の農業従事者は都市生活者よりも多くの議員を選出する票を持ち、安倍政権に対するプレッシャーとなっていると説明する。その結果、日本側は農産物5品目について高い関税を維持することを表明せざるを得ない。

 同様に、アメリカにおける自動車産業界も関税の引き下げには同意しないだろう、とBIV紙は見る。

 さらに、知的財産権のような問題や、労働と環境に関する条項についても、日米間の深い溝は埋まっていない。

◆日米両国の協力を説く
 一方、米戦略国際問題研究所(CSIS)リサーチ・アソシエイトのデイビット・パーカー氏は、日米間の貿易を取り巻く環境は、合意形成に向けて大幅に変化している、と論じる(ディプロマット)。ここ20年程の間に、両国の貿易は、農産物と自動車から、医療とエネルギーの分野にシフトし、経済状況も改善したという。

 日本の高齢化、原発事故以来のエネルギー需要は、米企業にとっての好機となる。安倍政権は、この分野での米企業の参入を、経済改革の成功を示すものとして歓迎すると同氏は分析している。

 TPP交渉を通じて、安倍政権は市場開放・構造改革を追求し、オバマ政権は新たな通商ルールの基礎を築こうとしている。どちらも相手の協力を必要としている、というのが同氏の見解だ。

◆大統領選によるタイムリミット
 また、TPP交渉にはアメリカの政治スケジュールが大きく影響するとFT紙は見る。11月にはアメリカで中間選挙が行われる。この選挙で、上院では共和党が優勢となれば、オバマ大統領に「大統領貿易促進権限(TPA)」を付与することになるだろうと同紙は予測する。これは、米大統領が署名した通商協定について、議会に修正を認めず採決させる権限だ(時事ドットコム)。

 共和党・民主党ともに、2015年の前半までに妥結できなければ、2016年の大統領選が、TPAの付与と議会の承認を取り付ける努力に対する障害となるだろう、とみているという。それ以降は、2016年1月の予備選挙を控え、民主党は貿易に関して争点となるような採決には及び腰となるだろう。

 BIV紙はオバマ大統領がTPAを付与されることはないまま任期切れを迎えると見ている。

 TPP交渉のタイムリミットはかなり近づいてきているようだ。

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Text by NewSphere 編集部