消費増税は“世界共通の難問” アベノミクス手法導入のEUなど、海外から注目

 国際通貨基金(IMF)は、今年の日本の経済成長率予想を大幅に引き下げた。7月の前回予想から0.7ポイント減の0.9%で、先進国中最大の下げ幅となった。ウォールストリート・ジャーナル紙(WSJ)は、4月の消費税増税の影響が予想より大きかったことが主な理由だとし、増税に対する国際的な反応を論じている。

 また、海外メディアではアベノミクス全体に対する論評も目立っている。例えば、WSJの別のコラムはヨーロッパで“EU版アベノミクス”が進行中だとし、両者の類似点に触れている。

◆さらなる増税は避けられない?
 IMFは下方修正の主な理由を消費税引き上げの影響としているものの、実施の是非が論じられている次の増税に関しては財政健全化に不可欠な要素とし、予定通り行うべきだという見解を示している。

 WSJは、日本の「消費税をさらに10%に引き上げるべきか?」という議論は、世界中の先進国にも共通する難問だと指摘する。目先の経済成長を重視して増税を先送り・中止するか、高齢化社会が進んで取り返しがつかなくなる前に増税し、まずは莫大な借金を返すべきか・・・。EU経済の低迷の象徴とも言われるフランスとイタリアは前者を選び、「支出のカットがその脆い経済を後退させるのを恐れ、財政赤字削減計画を延期した」と同紙は強調する。

 一方、IMFは後者の考え方を支持しているようだ。IMFは消費税を10%に上げても日本のGDPに対する公的債務水準は2030年には世界最悪の2倍を超えると見積もっており、これに対処するには最低でも15%に引き上げるべきだとしている。シンクタンク、日本経済研究センターも、10%への増税を実行しても「国のデフォルト(債務不履行)は避けられない」と、19%程度の消費税率を提案している(WSJ)。

◆増税よりも構造改革を推す意見も
 しかし、こうした「増税論者」に対する懐疑的な意見も多いようだ。WSJのインタビューに答えた格付け会社「スタンダード・アンド・プアーズ」の日本担当アナリストも増税に反対し、構造改革などによる「新たな歳入の創出」と、インフレの加速によって、負債の実質的な価値を減らすことを主張している。

 米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所のアダム・ポーゼン氏も、政治経済フォーラム「EAST ASIA FORUM」に寄せたコラムで、「安倍政権は特に優先的に消費税増税をする必要はない」と主張する。同氏は日本にとって今大事なのは、アベノミクスの「第3の矢」を速やかに効果的な形で実行することだと述べている。

 ポーゼン氏は、そのアベノミクスによる構造改革の機会が「消費税論議をしている間に失われたのは残念だ」とも記す。同氏は、限界税率の論議に時間を費やして健康保険改革が進まないアメリカとの類似点を指摘。日米共に正しい健康保険改革が行われれば、「両国の経済は10年以上は安泰かもしれない」としている。

◆EUも“第3の矢”を計画か
 欧州中央銀行のドラギ総裁は先日、積極的な金融・財政戦略とともに、サービス業などの供給側の規制緩和など、経済再生に向けた構造改革の必要性を訴えた。WSJの別の経済コラムは、欧米の一部の経済関係者がこれを「EU版アベノミクス」と呼び、日本との類似性を指摘しているとしている。

 ロンドンの経済コンサルタント会社「レウェリン・コンサルティング」のラッセル・ジョーンズ氏も、ドラギ総裁の計画とアベノミクスには類似性があるとしている。しかし、「問題はアベノミクスがあまりうまく行っていないことだ」とその効果については慎重だ。同氏は安倍政権の構造改革はほとんど進んでいないという見方を示し、財政再建についても、長期化を予想し「非常に難しいものとなるだろう」と述べている。

 欧州のエコノミストたちは、ユーロ圏の経済が、低成長・低インフレ率(あるいはデフレ)と結びついた「ジャパニーズ・スタイル」になることを懸念しているという。WSJのコラムは、それを指摘したうえで、「ヨーロッパは今、日本式の解決策を目指しているようだ。しかし、日本よりもうまくやらなければ成功しないだろう」と結んでいる。

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Text by NewSphere 編集部