アベノミクス円安の功罪 国内生産強化の動きの一方、“円安倒産”は増加
このところ円相場が活発な動きを見せている。8月中旬より一気に円安が進み、今月1日にはおよそ6年ぶりの1ドル110円台となった。その後反発し、現在(10日)1ドル108円ほどで取引されているが、近年の水準からは、依然としてかなりの円安水準にあると言える。この円安は日本経済に対して、プラス・マイナス、さまざまな影響を与えている。
◆自動車部品の世界的大手デンソー、国内での生産拡大を検討
大手自動車部品メーカーのデンソーが、国内での生産拡大を検討していることを報じて、円安のプラス面を強調的に伝えたのがブルームバーグである。
デンソーは、2014年3月期の単体売上高が2兆4908億円に及び、売り上げ規模では、現在、世界第2位の自動車部品メーカーだ。トヨタ自動車にとっては最大の部品供給メーカーである。ロイターによると、売り上げの48.8%を、ダイハツ工業、日野自動車を含むトヨタグループに頼っている。また、株式時価総額では、9月末の時点で国内第14位だった。
ブルームバーグによると、デンソーの加藤宣明社長は3日のインタビューで、「国内生産をある程度維持すること、あるいは生産量を増やすことさえも可能です」と語ったという。
◆国内の自動車産業の“空洞化”が止まる?
リーマン・ショック後、自動車販売の世界的不振により、日本国内での自動車生産台数は、2007年の1160万台から、2009年の790万台へと大幅に減少した。その後数年間、記録的な円高水準が続いたため、自動車産業では、生産拠点を海外へ移す動きが相次いだ。
ブルームバーグによると、日産自動車の国内生産台数は、今年度これまでのところ、世界全体の生産台数の17%を占めている。これは2008年度には36%だった。本田技研工業の場合は、6年前の34%から、今年は22%に低下している。トヨタ自動車の場合は、国内生産の比率はやはり減少しているが、国内で年間300万台を生産すると誓約しているという。
自動車産業では、現地ユーザーの好みに合いやすくするためと、輸送コストを不要にするため、また為替差損のリスクを減らすために、(日本ではなく)販売国で製造することが支配的な傾向になっているという。
ブルームバーグが着目したのはそこだ。デンソーには、自動車メーカーが生産量を増加させるタイミングと場所で、自らも生産量を増加させる傾向があるという。そこで、もしデンソーが国内での部品の生産を増やすということになれば、安倍首相の円安政策が、国内生産への関心を再びかきたたせているということのしるしになるだろう、と述べている。つまり、自動車産業全体で、生産拠点の国内回帰の動きが始まるのではないか、とほのめかしている。
インタビューで加藤社長は、高付加価値のものなど中核部品の開発と製造は日本で行い、輸出するつもりである、と語っていた。日本での生産の拡大は、今後の製品開発、製造にとっても、意義を持つものなのかもしれない。
◆中堅企業、中小企業にとってはありがたくない円安
このように円安は、輸出が大きな割合を占める大企業製造業にとってはメリットを持つものだが、中堅企業、中小企業にとっては必ずしもそうとは言えない。ウォール・ストリート・ジャーナル「日本リアルタイム」は、円安が原因で倒産した企業が、昨年に比べて急増したことを報じて、円安のマイナス面を伝えた。
記事がソースとしているのは、東京商工リサーチが8日に公表したレポートだ。記事によると、今年1月から9月までの間に倒産し、その原因として円安を挙げた企業の数は214社だった。前年同期では89社であり、2.4倍の増加だ。倒産した企業の多くは中小企業だったという。
それらの企業は、燃料、資源、食料品といった輸入原料の価格の上昇に見舞われた。最も大きな痛手を受けたのは自動車貨物運送業などの運輸業で、81社が破産した、と記事は伝える。製造業の44件がそれに続く。
この最新のデータは、円安に対する警戒を呼びかけている人たちに支持を与えることになりそうだ、と記事は語る。
ただし、4月から9月までの倒産件数は24年ぶりの低水準となっており、倒産件数全体が増えているわけではないようだ。