TPP交渉米代表、日本に「明確なビジョン」求める “日本の譲歩が必要”と英誌
暗礁に乗り上げたかに見える日米のTPP交渉について、フロマン米通商代表は2日、「日本は交渉の席で明確なビジョンを示すべきだ」などと述べた。合わせて、TPP合意は日本経済再生にとっても極めて重要だという見解を示した。
ワシントンD.C.の「THE HILL」紙などがこの発言を伝えたほか、英エコノミスト誌、ウォールス・トリート・ジャーナル紙(WSJ)など複数の米メディアが先行き困難なTPP交渉の行方を論じている。
【先月の交渉決裂は「日本側の計算違い」】
先月24日にワシントンで行われた日米のTPP交渉が決裂したことを受け、エコノミスト誌は「TPPは行き詰まった」と断言するオピニオン記事を掲載している。アメリカが農業と自動車で関税の撤廃・大幅な引き下げを求めると、交渉はわずか1時間で決裂。WSJなどによれば、甘利明担当相ら日本側の交渉団は、用意されたサンドイッチ・ビュッフェにも手をつけずに席を立ったという。
エコノミスト誌は、「日本の農家が (TPPに)対応するには、まだ時間が必要だ」としながら、先の交渉決裂について「アメリカはもっと譲歩するはずだと日本側が判断したのなら、とんだ計算違いだ」と批判。「その証拠に、アメリカは自動車部品の輸入で関税を引き下げる提案を取り下げた」と同誌は指摘する。ある日本の政治家は、この一連の流れについて「1980年代の日米貿易摩擦以来、最も厳しいエピソードだ」と語ったという。
ワシントン・ポストとエコノミスト誌は、11月の中間選挙後に米議会がTPP合意を前進させるために、オバマ大統領に貿易促進(ファストトラック)権限を与える法案の審議をする可能性に触れている。しかし、「政治的な勇気を要する」(ワシントン・ポスト)、「前提に日本の譲歩が必要」(エコノミスト誌)と、共にその実現には否定的だ。
【フロマン通称代表「TPP参加は日本経済再生に不可欠」】
フロマン通称代表は、こうした背景を前提に、2日にワシントンDCで行われた貿易関連イベントの講演で、日本とのTPP交渉について見解を述べた。まず、安倍首相が日本経済再生の「第3の矢」の核心部分にTPPへの参加を挙げていることを評価したうえで、「安倍首相が提示したその明確なビジョンが、交渉の席でも同様に示されることを望んでいる」と述べた(『THE HILL』)。
ワシントン・ポストは、安倍首相が農業をはじめ日本経済を開放する意欲を繰り返し示しているにも関わらず、TPP交渉の席では「それらの首相の決意が明確な提案として反映されていない」と、日本側のチグハグな態度を批判する。上記のフロマン通称代表の発言も、米国内のこうした不満を表したものだと思われる。
一方で、フロマン通商代表は、9月24日の交渉が決裂したにも関わらず、講演で「交渉相手が甘利担当相で良かった」と発言。TPPへの参加は日本の経済再生に不可欠であり、甘利担当相も経産相としてその責任を担う一人だからだというのがその理由だ(『THE HILL』)。
【米国内でも根強い反対論】
WSJによれば、フロマン代表は現地時間の3日、自由貿易が輸出拡大と雇用創出につながることを説明するため、ボルチモアの大手プリント基板メーカーを訪問する。同代表はこうした企業訪問を全米で行っているという。
しかし、アメリカでも国内の抵抗勢力の反対は依然強いようだ。WSJは、TPP交渉の妥結を妨げるのは「経済的な問題ではなく、政治的な問題だ」と記す。同誌が紹介する識者の見解の多くは、「DCは特に、自由貿易に関して非常に厳しい政治的環境にある」「民主党の労働派閥とその支持者の大半は反対している」「政治家たちは、自由貿易がもたらす利益について繰り返し国民に説明してきたが、多くの脊髄反射的な反応に苦労している」など、悲観的だ。
フロマン代表の講演があったイベントを主催したHSBC証券のスティーブ・ボトムリー氏は、TPP参加が「全員の利益につながると、いずれは理解されるだろう」としつつ、「今から将来にかけて、痛みを伴う道が続く」とWSJにコメントしている。
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