6年ぶりの“1ドル110円台” 円安はさらに進むとアナリスト予測、海外報道
為替相場は、8月半ば以降、円安が急速に進んでいる。1日には、一時、1ドル110円台を付けたが、これは2008年以来のことだった。円安は日本経済にさまざまな影響を及ぼすと考えられている。円安の要因や、今後の見通しなどについて、海外メディアが分析を行っている。
【円安による物価上昇が国民生活に影響、ひいては日本の景気回復にも?】
ブルームバーグは、円安が、国民生活や企業業績に与える影響を考察する。縦糸となっているのは、安倍首相率いる日本の経済再生にとって、どのような影響があるか、ということだ。
記事は第一に、消費者への影響に着目する。円安により、輸入品はもちろんのこと、原材料の高騰で、さまざまなものの価格が上昇している。記事で紹介されているのは、ワインやコーヒー豆、インスタントラーメンだ。円安による物価上昇で、消費者の購買力が落ちているが、それ以前から、消費税率引き上げや、賃金の上昇がインフレ率に追いついていないせいで、消費者は(支出に)慎重になっている、と記事は語る。
だが、個人消費の回復は、日本の景気回復にとって決定的に重要だ。個人消費(民間最終消費支出)が、国内総生産(GDP)の6割を占めているからだ、と記事は説明する。円安の急激な進行は、その逆風となりかねない。
【円安が企業に与える影響は?】
一方で、トヨタ自動車、日立製作所、パナソニックといった大企業製造業にとっては、円安はプラスに働いている。記事によると、円安によって、それらの企業の輸出商品は、価格競争力が増し、さらに海外での収益を円に両替したときの価値が上がっている。
しかしまた同時に、円安で苦しむ企業も多い。2003~2008年に日銀副総裁を務めた岩田一政氏は、「経済全体に対する(円安の)影響は、必ずしも皆、プラスなものではありません。むしろ、マイナスの影響のほうが勝ることになるかもしれません」「もしこれ以上円安が進めば、日本経済が景気後退に落ち込む危険が増す」と、ブルームバーグのインタビューで語っている。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙が伝えるところでは、燃料や原材料を輸入に頼っている企業が、急激な円安は、収益に打撃を与える可能性がある、と発言しているという。
【投資家の間で円売り圧力が強い?】
フィナンシャル・タイムズ紙は、日銀による短観発表と、1ドル110円になった日が、どちらも1日だったことから、この2つを並べて報じている。
記事は、短観の発表が、円安に何らかの影響を及ぼした、とは言っていない。しかし、「今回の短観で、円は保有するには恐ろしい通貨だという見方が変わることはほとんどないでしょう」という、英IG証券のチーフ市場ストラテジストChris Weston氏のコメントを紹介し、短観に絡めて、円売り圧力が強い、という見解を紹介している。
【アメリカの金融政策の動きが、今回の円安ドル高の主な原因?】
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、円売り・ドル買いが進んでいる要因について、詳しく論じている。
2008年のリーマンショック以後、アメリカは、日本と同様に、事実上のゼロ金利政策を取っている。しかしアメリカでは、景気の回復が鮮明になりつつあり、中央銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)が、近日、政策金利を引き上げるのではないか、という観測が強まっている。
一方で日銀は、現在の超低金利政策を今後も続けるだろう、という観測だ。この金利のギャップにより、ドル建てで資産を持ち、運用することのほうが魅力的になる、というのが同紙の説明である。記事は、日米の利率の差が開く傾向は、しばらく続くと考えている、とのアナリストのコメントを紹介している。
【日本で進行するインフレも、円安の原因に?】
またウォール・ストリート・ジャーナル紙は、日本でインフレが進みつつあることが、円売りの一因となっているのではないか、との見解を紹介している。
かつて日本はデフレに陥っていたため、利息がわずかであるか、まったくなかったとしても、円で資産を持っていれば(物価のほうが下がるため)購買力を上げることができた、と記事は説明する。
しかし、安倍首相の積極的な景気刺激策と、日銀が2%のインフレ目標を公約したことが、インフレへの期待を生じさせるのに役立ち、現に物価が上がり始めた。結果として、日本国債の実質金利は、かなりのマイナスになっている、と記事は伝える。実質金利は、名目金利からインフレ率を差し引いたものだ。このため、円で資産を持っているうまみが一つなくなってしまった。
記事は、「これまで円安を引き起こすもとになってきた要因は、今なお全て存在しています。さらに円安が進行するでしょう」とのアナリストのコメントを紹介している。
ブルームバーグは、エコノミスト80人への調査から、来年にはおそらく1ドル112円まで円安が進むだろう、との予測を伝えている。
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