EUに“日本型デフレ”の危険…佐藤日銀委員が懸念表明 海外紙も注目

 5日、日銀の佐藤健裕審議委員は大分市内で講演を行い、「ユーロ圏が日本型のデフレに陥らないかどうか、注意深く観察している。ユーロ圏(の経済)が伸び悩むことは世界経済の下押し要因になりかねない」と述べた。

【ECBドラギ総裁の見解】
 同日、欧州中央銀行(ECB)は、ユーロ圏がデフレに陥らないための一連の施策を発表していた。ロイターによれば、その際、同行のドラギ総裁は、ユーロ圏において長期的インフレは定着し、消費者物価が下降のサイクルに陥る見込みは小さいことを強調したという。

【佐藤審議委員による反論】
 これに対して、海外各紙によると、佐藤氏は以下のように反論を述べたという。

「中長期の予想インフレ率はこれまで米欧ともに 2%程度で安定しているとされ、ユーロ圏の政策当局にとってはそこが日本のような長期デフレに陥らないとの根拠の一つであった」。

「しかし、日本の経験では、低いインフレ率が長く続くことで人々の予想がバックワード・ルッキングに変化し、中長期の予想インフレ率も適応的に低下した可能性も示唆される」。

「既に ECB はディスインフレ長期化のリスクに対し、非伝統的手段の活用を排除しない方針を明らかにしており、今後の政策運営に注目している」。

【日本の物価上昇について】
 また、佐藤氏は日本の物価について「思いのほか上昇している」とし、追加緩和など「政策調整は不要」と述べた。

「『物価安定の目標』は、もとより 2%をピンポイントで目指す硬直的な枠組みではなく、上下双方向にアローワンスを持つ柔軟な枠組みである」。

「(同)目標が目指すのは、物価だけが上昇するのではなく、全般的な経済情勢の改善とともに賃金が上昇し、それとバランスよく物価が上昇する世界である」。

 このように述べた後、佐藤氏は、「足許の物価上昇は、円安・エネルギー価格上昇とともに、相対的に生産性の低い非製造業中心の回復で経済が主に雇用面から意外に早く供給力の天井にぶつかりつつあることも影響しているように思われる」と指摘。人手不足など、供給要因による賃金・物価上昇は「長い目でみれば企業収益や設備投資、株価に影響がある」として、「持続的でない」との懸念を示した(ロイター)。

「日本銀行が単に物価上昇だけを追求していくといった誤解は避けなければならない」という佐藤氏の言葉を紹介しつつ、ウォール紙は、「日銀の金融政策決定会合が来週に予定されているものの、新規の緩和策は期待できない」と結んでいる。

日銀を知れば経済がわかる (平凡社新書 464) [amazon]

Text by NewSphere 編集部