豪外相、日本を“同盟国”と明言せず…中国への配慮か? “八方美人”外交を海外紙は懸念
5日、アボット豪首相が600人にも及ぶ使節団を率いて日本に到着した。6日までの交渉で、日本は豪州産牛肉の関税を将来的に38.5%から19.25%へと半減させ、オーストラリアは日本車輸入関税5%を撤廃することが、大筋合意されたと報じられている。
使節団は続いて韓国・中国とも交渉を行う予定だ。日本はオーストラリア第2の貿易相手国で(2007年中国に抜かれ首位陥落)、アボット首相は日本を「親友」「強い味方」などと評している。
しかし海外各紙はどちらかというと日本より米中との絡みを重視しており、日本は1週間の外交行脚のあくまで出発点という位置づけのようである。
【オーストラリアの逆襲】
フィナンシャル・タイムズ紙は、オーストラリアは鉄鉱石や石炭の輸出国であったが、鉱業投資ブームの減速により22年ぶりに景気後退のおそれが生じたため、農業製品やサービスの輸出による経済多様化を狙っている、と解説した。
ガーディアン紙は、ビショップ豪外相が、前労働党政権が6年間をムダにし、国際競争者としての地歩を失った、と批判していることを報じた。ビショップ外相は「米国は今や韓国と自由貿易協定があり、競争力のある牛肉市場の多くを我々から取り上げてしまっています。そこで我々は北アジアの3経済大国(編注:日中韓)と自由貿易協定を締結することを決断しました」などと述べている。
【余裕しゃくしゃくのアボット首相】
アボット首相も「オーストラリア産品がもっと日本で販売され、日本製品がもっとオーストラリアで販売される希望が見えていますが、それだけではなく、さらなる投資、より多くの双方向投資と、オーストラリア企業がこの日本で一層繁栄する機会を、我々は望んでいます」などと発言した。
アボット首相は在日豪企業の代表格である物流会社・トール社を視察した他、大使館のバーベキューでモーリス・ニューマン政府ビジネス諮問会議議長と大柄な息子マイケル氏を並ばせ、「わが友人父子です。父親は若い頃にはほぼベジタリアンで、息子は豪州産牛肉をたくさん食べました。日本にもっと多くの豪州産牛肉が必要だとする理由はこれです」などと冗談を飛ばしている。
【問題は米中】
だが各紙は、八方美人外交を懸念する論調でもある。フィナンシャル紙は、もともと西欧寄りなアボット首相が就任直後、中国・華為技術社の国内ネットワーク構築参加を国家安全保障を理由に拒否していたり、ビショップ外相も初訪中で中国の防空識別圏宣言を批判して共同会見を気まずいものにするなど、中国との関係強化が簡単には行かなそうである背景を指摘した。
豪ABCは、ビショップ外相に「日本は同盟国なのか、単なる親友であるか」「日本を同盟国と評することを聞いて中国が憂慮するのではないか」といった厳しい質問を浴びせている。ビショップ外相はそれに対し「大文字AのAlly(編注:おそらく真の同盟国という意味)は、米国であります。小文字aのallyは、東南アジアに散在します」「同盟国の定義方法によって異なります。中国は我々と米国との関係を理解していますし、我々が40年間を遡る非常に長い貿易関係を日本と持っていることを、間違いなく理解しています」などと回答した。
またフィナンシャル紙は、TPPが停滞しているからオーストラリアは日中韓との貿易協定を優先していると報じる。朝日新聞は、その隙を活用するかのように「日本の牛肉市場で競合する米国より先に低い関税を手に入れ、シェアを広げたいとの思惑があった」と指摘している。「日本にも、豪州との交渉を急ぐことで、関税撤廃にこだわる強硬な米国を牽制する狙いがある」とのことだ。
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