アジアで賃上げ期待できないのは日本だけ? アベノミクスの課題を海外紙が指摘
春闘が始まった。日本の労働力人口の約85%を占める雇用者にとって、賃上げ率は、景気の動向を肌で実感させるものではないだろうか。安倍首相の旗振りもあり、国内大手製造業では、基本給昇給(ベア)も達成されようとしている。
そんな中、ブルームバーグは、アジア各国での高い賃上げ率を紹介する記事を掲載している。記事のタイトルはこううたっている、「大幅な賃上げが欲しい? ならアジアへ移ろう(ただし日本は避けよ)」。
【アゲアゲの中国、しょんぼりの日本?】
国際リクルート企業のヘイズ社が、日本、中国、香港、シンガポール、マレーシアの企業2600社以上を対象に、毎年恒例のアンケート調査を行った。記事は、その報告書『2014年度 ヘイズ給与ガイド』に基づくものだ。
記事は、昨年、もっとも賃上げが顕著だった国として、中国をピックアップする。それによると、アンケートを受けた企業のうち12%が、10%以上の賃上げを行い、54%の企業が6~10%の賃上げを行った。さらに、58%の企業が、今年、6~10%の賃上げを行う見込みだという。
逆に、ワーストとして、記事は日本を取り上げる。昨年、アンケートを受けた企業の16%が賃上げせず、64%の企業では、賃上げを行ったものの、その上げ幅は3%未満にとどまった。そして、今年もほとんど変わらず、12%は賃上げなし、64%の企業が3%未満の賃上げを行う見通しであるという。
【経済の好循環に賃金上昇は欠かせないステップ】
このように、日本において、賃金上昇が停滞していることは、“アベノミクス”にとって問題である、と記事は指摘する。「企業の利益が増える→給与が増える→消費が増える→企業の利益が増える」という経済の好循環を実現する上で、賃金上昇は欠かせないステップだからだ。
もっとも、この記事では、上昇率のベースになる各国の給与水準や、物価上昇率については何ら触れられていない。あくまで「賃上げ率」にのみ着目したものであることは、記事のタイトルが示すとおりだ。
【大企業も今年は賃上げに前向き】
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、安倍首相が強く要請するとおりに、賃上げを行おうとしている大企業の姿を取り上げている。
昨年来、“アベノミクス”の成果は、まず、20%近い円安として現れた。それによって、輸出産業である製造業、とりわけ自動車メーカーの利益が膨らんだ。その端的な例がトヨタ自動車だ。今期、トヨタは、過去最高となる2兆4000億円の営業利益を見込んでいる。この好業績のおかげで、労働組合は、強気な賃上げ要求をすることができる。
一方で、今年4月には、これもやはり安倍首相の主導する、消費税増税が待ち構えている。その影響で、景気の若干の後退は避けられない、との見通しから、企業側にも、いまのうちに、景気の上昇を確実にして、デフレ不況から脱却したい、との思いがある。トヨタ、本田技研工業、三菱自動車工業、東芝、日立製作所といった、日本を代表する企業が、賃上げが日本経済に与える影響を自覚し、政府の賃上げ要求を真剣に考慮している事実を、同紙は伝えている。