120兆円の年金で、もっと“バクチ”すべき? 専門家の改革提言の裏側とは
伊藤隆敏・東大教授率いる政府パネルは20日、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の独立性拡大や、現在国債に偏重している投資配分をハイリスク・ハイリターン化するなどの最終提言を提出した。
国内報道では、団塊世代が受給年齢に達し年金運用への圧力が強まる中、損失が懸念されている。一方、海外報道は、変革の必要性や、投資家らの歓迎の声が強調されている。
【まずはベビーファンドを分離しての運用を提言】
パネルは、民間株、不動産信託、インフラなどへの投資増を提言している。GPIFの資産配分は法律で定められており、最低52%が国債、逆に国内株式は最高でも18%とされている。現在は国債が約60%、国内株式が約16.5%の構成とみられるが、株価が今年急騰していることから、このままでは国内株式18%の上限を超えてしまう可能性もある。
ただし、資産およそ120兆円を抱えるGPIFがいきなり積極運用に出れば、「クジラが小さな市場に飛び込んだように」暴騰を招く危険もあるため、パネルは積極運用目的の資金プール「ベビーファンド」を分離する提言をしている。だがいずれにせよ法改正は必要となる。なお、GPIFの積極運用は円安圧力になることも指摘されている。
【アベノミクスに呼応した提言】
パネルによると、国債比率の削減は、日銀および安倍政権のインフレ政策に対応している。インフレになれば債券の価値は目減りするためだ。利回りも現在、10年債が0.61%と、世界最低である。ただしGPIFの三谷隆博理事長は6月、日銀が2%のインフレ目標を達成できることに疑問を表明し、少なくとも2015年までは資産の60%を国債で保有する考えを示している。
【基金より企業の改革が真の狙い?】
また、現在厚労省が運用を監督し、理事長1名・取締役1名でしかない体制の独立性を高め、取締役会を設置する事や、民間専門家の登用、新設される「JPX日経400」株価指数を投資基準に採用すること、なども提言されている。
JPX日経400指数は、銘柄選定基準として投資利益率やコーポレートガバナンスを重視している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、それをGPIFのような巨大投資家が見るとなれば、「歴史的に、株主に報いる事に重点を置いていなかった日本企業」も自ら改善に乗り出すはずだとの期待が、外国人投資家の間で大きいと伝えている。むしろGPIFに見せるためにJPX日経400が作られたとさえ言える旨、今月すでに報じられている。
【そもそもが政権の意向か】
国債からハイリスク・ハイリターン商品への投資誘導は、アベノミクスと日銀緩和政策の狙いでもある。今回のパネルもその目的で招集されていると、同紙は指摘している。実際、2008年にも別パネルが同様の勧告を出したものの採用されなかった。伊藤氏は、今回は厚生労働省の理解を得ており、「政府がこれらの改革を実施する意志を持っていることを感じています」と語っている。