「おとぎ話なみの強運」 英紙が安倍首相を皮肉るわけ
政府が11日発表した7〜9月期の企業感情予備調査によると、景況指数(経済が改善していると感じる企業から悪化しているとする企業の割合を引いたもの)が、前四半期の5.9から12.0に上昇した。
また日銀によると、8月の企業物価が前年同期比2.4%増と、約5年ぶりの急増となった。
これに対し、7月の生鮮食品を除く消費者物価の上昇は0.7%で、さらに円安で高騰中のエネルギーを除けば、0.1%かそれ以下に落ちてしまう。ボーナスや残業代の支払いを含む名目現金収入は前年同期比0.4%増で、6月の0.6%増から下落している。基本給は0.4%減で、2012年6月以来の下落が続いている。
日銀は2年間で2%のインフレ目標を掲げているが、各紙は、消費増ではなくコスト増による「悪いインフレ」を警告している。
【企業は基本給を上げて環境改善に報いよ】
日銀の石田浩二政策委員はこの日、青森で講演し、「所得が物価に連動して上昇しない限り、経済成長は一時的であって、持続可能にはなりません」、「世帯実質購買力は低下し、消費者支出を減少させて、経済全体の悪化原因となるでしょう。これは、デフレを脱却せんとする我々の目標を無意味にしてしまいます」などと語った。フィナンシャル・タイムズ紙は石田氏について、政府を代弁して「賃金を上げて状況の改善に報いよと企業に求めた」と説明している。
同紙によると、経団連や経済同友会などは、基本給増額による固定雇用コストの増加を警戒し続けており、競争力の喪失につながると抗弁している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、賃金や一般的な雇用条件について、政府・企業・労働者の三者協議が来週にも始まる見込みだと報じている。
【安倍首相は、まるでファンタジーの主人公?】
フィナンシャル・タイムズ紙は別のコラムで、安倍首相を「指輪物語」のようなファンタジー物の主人公になぞらえている。
それによれば首相は、「3本の魔法の矢と、今や連動する5つのリング(※東京オリンピック開催)」を手にし、「15年間土地を恐怖に陥れているデフレドラゴンの退治に一歩近づいた」。
ただし地元民は、アベノミクスを「束の間の錯覚」としか捉えておらず、海の向こうの旧敵は、右翼修正主義への急傾斜を警戒して、「優しい魔術師ガンダルフというより邪悪なネクロマンサー、サウロン」と見なしている。
しかし首相は、尖閣問題以来の緊張を背景に支持を得たり、五輪開催の競争相手が経済や安定性に問題のあるスペインやトルコであったりなど、やはりファンタジーの主人公なみに強運であると例えられる。
同紙は、「可処分所得から3%ポイントを奪う」という、賢明とは思われない消費税増税に経済が耐えられたなら、それこそ「英雄の強運を従えていると確信する」しかないであろうと、皮肉る論調だ。