日銀の路線転換 好評の海外紙が分析する課題とは
日銀の黒田新総裁は4日、「2年間で」「2%のインフレ」「債権購入を2倍に」「マネタリーベース(貨幣流通量)を2倍に」するという政策委員会決定を発表した。この目標達成は、マネタリーベース拡大などの「量的(quantitative)緩和」と、何年満期の国債であれ構わずに購入するという「質的(qualitative)緩和」の、「Qの2乗」によって実現するという。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「明るい赤プリントのプラカードを使用しつつ、黒田は2という数字に全てを煮込んでみせた」と評した。
各紙は、「あまりにも臆病すぎる」と不評だった白川前総裁の体制からの劇的な転換だと報じた。フィナンシャル・タイムズ紙は、マネタリーベースを国民所得の55%相当まで上昇させることは、「20%にも遠く及ばない米国やユーロ圏の水準よりはるかに上」だと報じた。市場関係者はこの姿勢を評価しているようであり、日経平均株価は急騰、円は急落した。
白川前総裁も懸念していたように、むろん不安材料もある。各紙はバブル再燃のほか、経済の一部だけが急成長することで所得より先に物価が上がる「悪いインフレ」や、資金を流しても実際に融資が拡大しないこと、などを懸念する。とりわけ危険なのが、すでに経済規模の240%にも及ぶ国債市場において、日銀が長期国債の70%を「むさぼり食った」あと、目的達成とみて介入をやめれば、市場が一挙に混乱するというものだ。もしそうなれば、日銀自身の資産も損害を受け、国の支援を受けざるを得なくなるという。
だが黒田総裁は、長期金利上昇や資産バブルの兆候は無く、経済回復に伴って融資は自ずと拡大するとして、リスクを恐れず前進を続けると強気だ。また、白川体制下では同様の緩和論に反対することもあった政策委員会は、2年という期限付けに1票反対があった以外、全会一致でこれらの新政策を承認したという。
フィナンシャル・タイムズ紙は、従来、海外の中央銀行からは日本の経済政策は失敗を繰り返すばかりのものと見下げられており、「炭鉱のカナリア(※毒見役を意味する)」などと評されていたことを伝えた。また、安倍政権が白川体制に対して行ったような、中央銀行の独立性に介入する行為にも反対が強かったという。しかし最近ではそうしたトーンが鎮まりつつあり、黒田総裁と安倍首相は「中央銀行の独立性と金融政策の限界に関する政策思想の先駆者になってみせようとしている」と評している。