海外紙が指摘する日本の「電力改革」の課題とは?
安倍内閣は2日、「電力システムに関する改革方針」を閣議決定した。これは、2月の専門家委員会の提案を受けたもので、安倍新政権の「三本の矢」の一環である成長戦略の一つの柱となる。改革案は、2016年までに家庭用電力市場を自由化、18年初頭までには既存の電力会社解体、18年から20年には完全な「発送電分離」を目標として掲げる。この大胆な提案は、経済産業省のプレスリリースによれば、「電力の安定供給を確保すること」「電気料金を最大限抑制すること」「需要家の選択肢や事業者の事業機会を拡大すること」が目的だという。
しかし、改革の推進は容易に進まないのではと、海外各紙は不安要因を挙げている。
【改革推進の妨げ:既存電力会社】
ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、法的には既に電力産業はほとんど規制が緩和されているが、それは現実には意味がないと指摘する。つまり、既存の電力会社が地域の全送電線を所有するため、実際には新規参入が難しいというのだ。
またフィナンシャル・タイムズ紙は、政権与党は電力会社とつながりが深いと指摘。実際、自由民主党の委員会では、改革開始の年度に関する表現を弱め、電力会社へ電力安定供給のための保証を求めるなど、改革に及び腰だったと報じられている。同紙によると、2005年には東京電力の他、地方の電力会社が規制緩和拡大と家庭用電力市場の自由化推進をやめるよう政府に要請。結局、一部の規制緩和では、利用者の2%しか動きはなかったと伝えている。
【改革推進の妨げ:コスト高】
2つ目の不安要因は、2011年の津波による福島原発事故後の、各電力会社におけるコスト急増であるようだ。電力会社各社は、原発事故後、原発停止による発電量不足を補うための輸入燃料費や、停止している原子炉の維持費の増加に直面しているという。
各社は事故後、最初の引き上げ幅よりはある程度圧縮したものの、電気料金の引き上げを求め、政府もこれを承認している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「一般的に、規制緩和の動きは良いことです。しかしまずは、事態の正常化を図るべきでしょう」「日本の電力供給が、原発事故前に戻ったならば、その時にはじめて規制緩和は実行可能になるでしょう。」という専門家のコメントを掲載している。さらに、安倍首相に改革案の国会提出を指示されている茂木経産相も、現在の電気料金値下げは難しいと認めているとも報じている。
総じて各紙とも、改革の推進は難航するだろうとみている。ただ、ニューヨーク・タイムズ紙は、電力会社各社の経営状態は厳しく、改革を進めるしか道はないのだと結んだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙も、茂木経産相の「難しい課題を避けていては、日本をより良い方向へ向かわせることはできない」との発言を引用している。