井上尚弥が挑むタイトルマッチとは? スケジュールや対戦相手、評価を解説

内閣官房内閣広報室 / Wikimedia Commons

2022年に世界バンタム級で4団体(WBA:世界ボクシング協会、WBC:世界ボクシング評議会、IBF:国際ボクシング連盟、WBO:世界ボクシング機構)の統一を果たした井上尚弥選手。2023年1月にそのバンタム級の王座を返上し、階級を1つ上のスーパーバンタム級に転向したうえ、今年2023年7月に初めてのタイトルマッチを行うことが決定しています。

「史上最高傑作」とも言われる井上尚弥選手の試合を見逃さないよう、しっかりとスケジュールをチェックしておきましょう。スーパーバンタム級といった階級の特徴や、今回の対戦相手であるフルトン選手の来歴・戦績、井上尚弥のPFPにおける評価なども知っておくと、試合をより楽しむことができます。さらに、タイソンやメイウェザーといったレジェンドたちと井上尚弥選手の関係性を押さえておけば、ボクシングに詳しくなること間違いなしです。井上尚弥選手のタイトルマッチに興味がある人はもちろん、この機会にボクシングについて詳しく知りたいと思っている人もぜひ参考にしてみてください。

井上尚弥の対戦スケジュール

対戦スケジュール

井上尚弥選手の自身初となるスーパーバンタム級でのタイトルマッチは2023年7月25日に決定しています。当初は同年5月7日の予定でしたが、井上選手が練習中に負傷したのを理由に延期となっていました。井上選手のケガはスパーリング中に発生したものと考えられており、精密検査の結果、腱に炎症がみられたそうです。どの腱を痛めたのかは明らかになっていませんが、これまでに右拳の腱を何度か痛めており、2015年には手術を受けた経験があるため、今回も右拳の負傷ではないかと考えられています。なお、骨に異常はみられなかったことから、深刻な状態ではないとされています。ちなみに、7月25日に開催される井上vsフルトンの会場は有明アリーナとなっています。有明アリーナは過去に井上選手がバンダム級4団体王座統一を達成した場所であるなど、非常に縁起の良い会場です。

スーパーバンタム級とは?タイトルの歴史と重み

スーパーバンタム級とは、ボクシングにおける階級の1つです。この階級は体重別に分かれており、全部で17階級用意されています。これは体重によるハンディキャップを少なくするのが目的で、ライトヘビー級以上の級を除いて2~3kg程度ごとに分かれているのが特徴です。スーパーバンタム級の契約ウェートは53.524~55.338kgで、フェザー級とバンタム級の間に位置しています。17階級のうちで6番目に軽い階級です。なお、「バンタム」とは英語で「チャボ」を意味しており、チャボとは小型の鶏を指す言葉で、小柄でケンカ好きな様子に由来しているという説があります。

この階級は日本ではかつてジュニアフェザー級と呼ばれ、事実的に消滅していた時期を経て1976年にWBCで再設置されました。初めて王座を獲得したのはパナマ出身のリゴベルト・リアスコという選手で、この階級において日本人として初めて世界王座となったのは、そのリアスコ選手を破ったロイヤル小林選手でした。そのほかにこの階級で活躍した日本人ボクサーとして挙げられるのは、畑中清詞選手や西岡利晃選選手などがいます。そして、亀田三兄弟の三男として有名な亀田和毅選手はWBA世界スーパーバンタム級で現在1位となっています。

スーパーバンダム級はバンダム級やスーパーフライ級など軽量級に分類される階級よりも重い階級に位置しており、ライト級やフェザー級などの中量級に近いです。そのため、階級変更が多く見られる階級でもあるようです。なお、井上尚弥選手の転向前の階級であるバンタム級は17階級のうち5番目に軽く、今回は体重を増やした状態で試合に臨みます。

「WBC・WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ」はどうやって見れる?

試合はNTTドコモの新たな映像配信メディア「Lemino」(レミノ)で独占無料生配信されます。視聴者がより生配信を楽しめるよう、試合の見どころを紹介する特別番組も合わせて提供されるということで、試合当日に向けて熱を高めるようなプロモーションが行われるでしょう。

井上尚弥の対戦相手:フルトンの来歴

フルトンのこれまでの戦績

井上選手にとって「最大の難敵」と謳われているフルトン選手。WBOならびにWBC世界スーパーバンタム級の王座統一を果たしている彼は、これまで21戦全勝という功績を挙げています。そんなフルトン選手は、アマチュア時代に90戦もしているキャリアが長い選手です。アマチュア時代は2013年5月にはフライ級で優勝を飾るも、それ以降は目立った戦績を上げていません。プロ入り後は戦績が一転し、プロデビュー戦である2014年10月の対イサック・バジャー選手との試合以来無敗を誇っているフルトン選手。2022年6月4日にアメリカ・ミネアポリスで開催された防衛戦では、元WBAならびにIBF王者であるダニエル・ローマンにも大差判定での勝利を飾っています。

ただしフルトン選手は、KO勝ちは21戦中8戦と他の選手よりも少ないのがポイントです。パンチ力を除くほぼすべてのバランスが良いオールラウンダータイプで、素早さやテクニックでKO率の低さをカバーしています。井上選手はパワーもスピードもあるのでフルトン選手とも渡り合えそうですが、これまでの華々しい戦歴や井上選手との体格差を考えると、決して油断できない相手になるでしょう。

フルトンという人物について

2団体統一王者であるフルトン選手の本名は、スティーブン・フルトン・ジュニア。1994年7月17日にアメリカ合衆国で生まれているため、2023年6月現在の年齢は28歳です。身長169cmとこの階級では平均的ですが手足が長く、リーチが長く179cmでその長さを活かした戦い方をしています。階級はプロデビュー時から変わらずスーパーバンタム級で活躍しています。

ボクシング界での通称は「クールボーイ・ステフ」で、この愛称は普段の振る舞いから付けられたと言われています。フルトン選手は日頃から身だしなみに気を遣っており、また落ち着いた振る舞いを心掛けているといいます。対戦においてもテクニックを重視していて、ボクシングスタイルにおいても非常にクールで愛称とマッチしています。

また、フルトン選手の出身地はペンシルベニア州フィラデルフィア。毎日のように銃声が鳴り響くギャングの街で、フルトン選手は最貧層地域で生まれ育ちました。彼の母親はコカイン中毒者で、妊娠中にも薬物を乱用。その影響でフルトン選手は生まれた時に筋肉が十分に発達しておらず、背中には穴が開いていたそうです。時間とともに穴はふさがっていきましたが、現在でも彼の腰の上あたりに矢じり型のアザが残っています。

さらに、フルトン選手は15歳になるまでに5人の友人と死別するなど、悲惨な過去を抱えている人物です。そんな彼がボクシングと出会ったのは、彼がちょうど12歳になるころでした。銀行強盗で服役していた父親が出所し、約10年ぶりに再会した際にボクシングジムに連れて行かれたのがきっかけ。「劣悪な環境で生き残れるなら、何でも遂げれるはず」という思いで、日々ボクシングの練習に励んでいたそうです。その後は8年間アマチュアで経験を積み、2014年10月にプロデビューを果たし現在に至ります。

井上尚弥の評価とは

PFP(パウンド・フォー・パウンド)における評価

米スポーツ専門局「ESPN」ならびにボクシング界で最も有名な専門誌「ザ・リング」によると、PFP(パウンド・フォー・パウンド)における井上選手の評価は、エロール・スペンスJr.選手やオレクサンドル・ウシク選手といった名だたるボクサーを抑え、堂々の2位となっています。1位に輝いたWBO世界ウェルター級覇者テレンス・クロフォード選手の票数が8票であったのに対し、井上選手は7票と非常に僅差。これにより、いかに井上選手の活躍が期待されているかがうかがえます。

井上選手は前回のPFPでも2位という結果でしたが、今回は前よりも1位との票差が少なかったです。1位に井上選手をセレクトしたマイケル・ロススタイン記者は、「井上選手はここ1年間で特に印象的な選手だった。ビッグファイトでのKO勝ちも理由の1つだ」と称賛。また、同階級最高の選手たちを相手に、過去5試合でKO勝ちを収めた安定感も注目されているそうです。

PFP(パウンド・フォー・パウンド)とは

PFPとは各メディアで発表されるランキングで、その基準と番付はメディアごとに異なるとされています。DAZNはPFPの選出基準を「総合記録、対戦相手の質、勝利した試合の質、近年の活躍ぶり」※1の4点を基準付けしています。この基準は日本国内で一般的に考えられている、「全ボクサーの体重をすべて同一にした場合に考えられる最も強いボクサー」という考え方とは異なっています。

タイソン、メイウェザーなどレジェントと井上尚弥の関係性とは

彼らとの直接的な関わりはこれまでにはありませんが、いくつかのメディアで相互的に言及がありました。井上選手に言及していたのはマイク・タイソンで、過去には井上選手のことを知らないというラッパーのブロンソンに、「井上はとんでもない選手。12個のタイトルを8階級で制覇したマニー・パッキャオ選手以上か同レベルだ」と発言したと伝えられました。この発言には米スポーツメディアも注目するなど、アメリカ国内での評価を物語るものになっています。

一方で井上選手から言及があったのはフロイド・メイウェザー選手。井上選手は過去に元世界5階級王者であるメイウェザー選手のある行動を自身のツイッターで称えています。その内容は、2022年にさいたまスーパーアリーナで行われたメイウェザー選手VS朝倉未来選手のエキシビションマッチにて、花束贈呈の際に贈呈人がメイウェザーに渡すはずの花束をリング上に投げ捨てた際の、彼が無言で花束を拾い上げた振る舞いについてでした。井上選手は「俺なら絶対に拾わなかった。メイウェザー選手に謝罪したいと思ったのは自分だけではないはず」と、贈呈人の行為を恥じるとともに花束を拾い上げたメイウェザーの行動に感動したという旨のツイートをしています。

※1:DAZN’S MEN’S POUND-FOR-POUND RANKINGS TOP-10 LIST: WHO IS THE BEST FIGHTER RIGHT NOW?

Text by NewSphere 編集部