ビエンナーレで表現の自由論争 ガザ言及巡り政府が介入、南アフリカ館は空に

筆者撮影

 5月に開幕する第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展をめぐり、南アフリカ発の表現の自由論争が注目を集めている。南アフリカ政府の指摘により、代表作家として選出されていたガブリエル・ゴリアス(Gabrielle Goliath)のパビリオン出展は中止となり、さらに南アフリカ館は代替展示が選ばれず、空のままとなった。しかし、ゴリアスのチームは政府の介入に屈せず、別会場で作品を展示する予定だ。

◆ガザを扱った内容は対立を招くと文化相が指摘
 2025年12月下旬、南アフリカのゲイトン・マッケンジー文化相が、ゴリアスの作品に含まれるガザを扱う要素を「極めて深刻な分断をもたらす(highly divisive)」と指摘し、内容の変更を求めた。これに先立ち、政府とは独立して運営されている選考委員会が、ゴリアスとキュレーターのイングリッド・マソンド(Ingrid Masondo)を南アフリカ館の代表に選出していた。マッケンジーは右派政治家として知られる。

 ゴリアスらが提案していた南アフリカにおけるジェンダーに基づく暴力を主題とする作品『エレジー(悲歌)』は、ゴリアスが2015年から継続的に展開しているパフォーマンス・アートのシリーズである。ヴェネチアでの展示では、ナミビアとガザにおける女性への暴力も扱う内容へと発展させる予定だった。2023年10月にイスラエル軍の空爆によって息子とともに命を落としたパレスチナの詩人ヒバ・アブ・ナダの言葉を紹介する部分が特に問題視され、文化相は変更を求めた。

 これに対し、ゴリアスとマソンドは、これは「検閲にあたる」と主張し、2023年にイスラエルによるガザでのジェノサイドを訴えて国際司法裁判所に提訴した南アフリカ自身の立場と矛盾すると指摘。シリル・ラマポーザ大統領にも介入を求めた(アポロ)。南アフリカ館選考委員会も「政治的圧力および自由な表現を封じ、芸術的誠実さを損なおうとする試みに対して、アーティスト、キュレーター、そして彼らのプロジェクトへの揺るぎない支持を改めて表明する」とする声明を出した

◆ゴリアス作品は別会場での上映が決定
 ゴリアスのチームは高等裁判所に緊急申し立てを行ったが、高等裁判所はゴリアス側に原告適格がないとして申し立てを棄却した。アーティスト側は現在、控訴の手続きを進めている。一方、ヴェネチア・ビエンナーレ開催期間中に作品を展開するため、独自に展示の場を確保した。ヴェネチアのカステッロ地区にあるキエーザ・ディ・サンタントニン教会で、5月4日から3か月にわたりビデオ・インスタレーションとして作品が上映される。会場では『エレジー』の三つの新作が展示される予定だ。八つの棺のような映像スクリーンを通じ、声と光が鑑賞者を包み込む構成となっている。

 ゴリアスは、ヴェネチアでの発表が極めて重要だと語る。今回の中止は「マッケンジー文化相が作品の特定の側面に異議を唱え、私がその変更を拒否したことのみを理由としている」とし、「危険な前例」を作るものだと述べた。(ガーディアン

 本展は、南アフリカにおけるフェミサイドへの抵抗を示す作品である。展示側は、同国が国際司法裁判所(ICJ)でパレスチナ人の命を守る取り組みを取ってきた対応とも響き合うものとして位置づけている

Text by MAKI NAKATA