史上最大の北米W杯 戦争と暴力の影で高まる不確実性

メキシコシティのアステカ・スタジアム(3月3日)|Fernando Llano / AP Photo

 北米が会場となるFIFAワールドカップの開催まであと100日を切った。48チーム制となる史上最大の大会で、FIFAは史上最高の収益も見込んでいる。しかし大会は、イランでの戦争やメキシコの治安悪化、開催都市の資金問題など、さまざまな「不確実性」の中で迎えられようとしている。

◆トランプ氏は無関心 イラン攻撃が不安要因に
 米公共ラジオ(NPR)は、これほど世界的な地政学的不安定さの中で開催される大会は、近年例がないと述べる。大きく心配されているのが、アメリカとイスラエルがイランと戦争状態に入ったことによる影響だ。イランは出場が決定しており、現時点ではチームはボイコットやその他の理由による撤退の計画を示してはいない。しかし、イランサッカー連盟のタージ会長は、参加は危ぶまれるとの見解を示した。FIFA(世界サッカー連盟)は引き続き注視するとし、公式な見解は示していない。

 イランが出場したとしても、問題は残る。まずイランは、アメリカの入国禁止措置の対象となっている。代表チームとコーチ陣などには影響しないが、例外措置としてのビザ発給は国務省の判断にゆだねられており、現状政府関係者やスポンサー企業、サポーターが渡米するのは困難だと見られる。

 英タイムズ紙によれば、イランへの攻撃に対する報復の可能性を懸念し、すでにアメリカ本土で警備体制が強化されているという。イランの通常戦力が削られるほど、テロリストや工作員、あるいは単独犯による攻撃行為の可能性は高まると専門家は指摘。大会がイランによるアメリカ本土への攻撃の標的になる可能性もあるとして、今後数週間で脅威は増大するとの見方を示している。

 さらに、イランとアメリカが対戦する可能性がある。両国がそれぞれのグループステージで2位となった場合、7月3日の決勝トーナメント1回戦で直接対決になる。会場はアメリカ国内が予定されており、緊張はさらに高まりそうだ。

 昨年、FIFAのインファンティーノ会長はトランプ氏に平和賞を授与し、称えた。しかしそれから3か月もしないうちにイラン攻撃が行われ、トランプ大統領はイランが大会に参加するかどうかにはまったく関心がないと発言しているCNNは、トランプ氏との関係が近いインファンティーノ会長の姿勢に疑問を呈し、FIFAが政治的緊張の中で大会運営を維持できるのか試されていると指摘した。

◆麻薬王殺害 メキシコでの開催を不安視
 開催国の一つ、メキシコの治安も不安視されている。「エル・メンチョ」として知られる麻薬カルテルのボスがメキシコ軍により殺害された後、試合会場となるグアダラハラ周辺を含む各地で騒乱が発生。ワールドカップ開催を前に、深刻な治安懸念が広がっている。しかしインファンティーノ会長は、「我々は月や別の星に住んでいるわけではない」ためさまざまな出来事は起こると主張。すべては可能な限り円滑に進むとし、メキシコへの「完全な信頼」を表明した。(CNN)

 大規模なスポーツイベントでは、資金面も問題となる。NPRによれば、11のアメリカの開催都市には、セキュリティ費用としての連邦政府からの補助金6億2500万ドル(約990億円)がまだ支払われていない。一部の都市では計画に支障が出ており、この問題が緊急性を増しているという。
 
◆チケットは争奪戦 相変わらずの商業主義か?
 さまざまな懸念事項にもかかわらず、今年のワールドカップは熱狂的な盛り上がりを見せており、FIFAは史上最高の利益を上げると見られている。特にチケット価格の高騰は衝撃的なほど顕著だ。FIFAによれば、最初の2回の販売段階で、約200万枚のチケットが売られたが、実際はその30倍以上の応募があったという。実際の販売可能数は600万枚から700万枚だが、チケット需要は5億枚を超えているとインファンティーノ会長は語っている。(ロイター

 2次市場でも、定価を大幅に上回るチケットの販売が横行しており、争奪戦となっている。フランスのサッカーファン団体の副会長は、今回の大会は人々のための大会ではなく、エリート主義的な大会になるだろうと発言。サッカーの普及や競技を通じての平和という本来の目的から逸脱しているという見方を示した。(同)

Text by 山川 真智子