作られた「サムライ神話」、1000年の歴史で再検証 大英博物館で展覧会

大英博物館特別展「サムライ」の展示物|© The Trustees of the British Museum

 ロンドンの大英博物館で、「サムライ」と題した大規模展覧会が始まった。過去1000年にわたるサムライの歴史をたどり、そのイメージや神話がどのように形成されてきたのかを検証する。同館によると、サムライ像の構築過程そのものに焦点を当てる展覧会は初めてだという。

◆武器、鎧、スターウォーズまで! 圧巻の展示物
 展覧会では、大英博物館の所蔵品に加え、国内外29の機関から集められた約280点の資料とデジタルメディアを通じて、日本の武士階級の多面的な姿を紹介する。日本では武者(むしゃ)や武士(ぶし)と呼ばれた人々が、時代ごとにどのような役割を担ってきたのかを示す内容だ。

 同館が新たに収蔵した精巧な武士の甲冑をはじめ、多くの作品が初公開される。武器や鎧のほか、絵画、浮世絵、書籍、衣類、陶磁器、写真など幅広い分野の資料が並ぶ。

© The Trustees of the British Museum

 さらに、映画『スターウォーズ』のダース・ベイダーの衣装や、人気ゲーム『アサシンクリード シャドウズ』、日本の現代美術家・野口哲哉氏による新作も展示。ファッションや映画、ゲームなど現代文化への影響にも光を当て、サムライ像がどのように再解釈され続けてきたのかを示している。

◆史実とは異なる……作られた戦士の神話
 主任学芸員のロジーナ・バックランド氏はBBCに対し、西洋におけるサムライのイメージは主に「戦士」として受け止められてきたと説明している。無敵で忠誠心が強く、自己犠牲的で規律正しい存在といった像は、18世紀の浮世絵から現代の映画やゲームに至るまで繰り返し描かれてきたという。

 武士は900年代に登場し、1100年代以降には政治的支配力も獲得した。1615年に徳川家康が天下を掌握し長期の平和が訪れると、武士は戦場から離れ、官僚や学者、芸術のパトロンとしての役割を担うようになった。19世紀後半の明治時代には世襲身分としての武士階級は廃止される。

 バックランド氏は、近代以降に形成されたサムライ像の多くは後世の再解釈の産物であり、いわば「イメージ」として再構築されたものだと指摘する。展覧会は、軍事だけでなく文芸や芸術、行政といった側面も含め、多面的な歴史像を提示することを目指している。

◆サムライ=男ではない?女性の役割を再検証
 本展では、武士階級における女性の役割にも焦点を当てる。プレスリリースによれば、江戸時代の長期平和期には女性も武士階級の構成員に含まれ、全体の半数を占めていたと説明している。ただし、女性が戦闘に参加することは一般的ではなかったという。

 徳川幕府の体制下では、大名家の女性が家政や教育、家臣の管理などを担うケースも多かった。巴御前のように武勇伝で知られる女性の存在も伝えられているが、展示では戦闘の側面に限らない多様な役割が紹介されている。

 バックランド氏は、女性を含む武士階級の実像を示すことで、現代の映画やアニメなどで強調されがちな「男性中心の戦士像」を再考する契機になるとしている(ガーディアン紙)。

 この「女性が半数」という説明は海外メディアでも大きく取り上げられ、「半数が女性だった」とする見出しも見られる。ただしこれは、武士階級の構成員として女性が含まれていたことを指すものであり、戦闘員の男女比を意味するものではない。

 もともと「侍」という言葉は「主君に仕える者」を意味する。こうした広義の定義を踏まえ、展覧会は従来の固定的なサムライ像を問い直そうとしている。

 「サムライ」展は2月3日から5月4日まで開催される。

© The Trustees of the British Museum

Text by 山川 真智子