イタリア激怒、英料理サイトのパスタレシピ炎上「それを入れるなんてとんでもない!」

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 イギリスの料理サイトが紹介した、イタリアの伝統パスタ「カチョ・エ・ペペ」のレシピに、とんでもない材料が使われているとして、イタリア人たちが激怒している。サイト側は声明を出して釈明したものの、納得できない人も多く、食文化に対する考え方の違いが浮き彫りになった。

◆起源は古代ローマ、伝統料理の改ざんは許さない
 問題のレシピを掲載したのは、イギリスのフードサイト『グッド・フード』。もともとはイギリス公共放送BBCのコンテンツ会社が所有しており、2024年3月までは「BBCグッド・フード」の名で知られていたことから、知名度・人気ともに高い。

 今回の騒動の発端は、同サイトが紹介した「カチョ・エ・ペペ」の材料にバターが含まれていたことにある。イタリアのレストラン団体「フィエペト・コンフェセルチェンティ」のクラウディア・ピカ会長は、このような誤りが高く評価されているレシピサイトに掲載されたことに「驚愕した」と語り、「カチョ・エ・ペペ」はパスタ、コショウ、ペコリーノ(羊乳製で塩味が強いチーズ)だけで作るものだと強調。ローマのイギリス大使館に抗議の書簡を送ったという。(BBC

 英カントリー&タウンハウス誌によれば、「カチョ・エ・ペペ」は古代ローマまで歴史をさかのぼる最古級のイタリア料理で、羊を移動させる長旅のために、羊飼いたちが考案したものだという。乾燥パスタ、チーズ、コショウを使用し、鍋一つで栄養価の高い食事を作るためのアイデアだった。パスタはエネルギー源、チーズは保存性、コショウは体を温める効果があり、3つの材料に合理性があった。

◆イタリア人激怒 BBCにもとばっちり
 この件はイタリア全土で大きなニュースとなった。ローマの新聞イル・メッサジェロは、レストラン経営者らがイギリス国歌「ゴッド・セイブ・ザ・キング」になぞらえ、「ゴッド・セイブ・ザ・カチョ・エ・ペペ」と叫んでいると伝えている。

 イタリア公共放送RAIの記者は、BBCのようなメディアがこのような失態を犯したことに失望を表明(注:「グッド・フード」は現在BBCのブランドではない)。さらに、バターだけでなくクリームを加える提案まであったことを知り「身の毛がよだつ」と語った。(BBC)

 これを受け、「グッド・フード」はイギリスの家庭向けに入手しやすい材料で組んだレシピだったと釈明し、ローマの業界団体に対しては「本物のレシピを提供してほしい」と申し入れたという(BBC)。

◆バター入りは別料理 伝統は厳格に守るべき
 BBCは、イタリア人が外国のイタリア料理を揶揄するのは珍しくないとしながらも、今回の怒りは単なるアレンジではなく「伝統の改変」という根深い問題に起因すると分析する。ローマでホテルを営むあるイタリア人は、レシピのアレンジ自体は構わないが、オリジナルの名称を使うことが問題だと指摘。バターなど別の材料を加えたものは、もはや「カチョ・エ・ペペ」ではないという。

 外国人が気軽にパスタにバターを加えてしまうのには理由があるという。ウェブ誌スレートに寄稿したフードライターのダニー・パルンボ氏によれば、アメリカのレストランでは10回中9回はバター入りカチョ・エ・ペペが提供されるという。バターは乳化剤で濃厚な口当たりを生み出すため、シェフも客も満足してしまうのだという。

 同氏は、濃厚なバターやクリームを加えるのはアメリカ風のフェトチーネ・アルフレッドで、それを作るのは結構だが、シンプルなチーズとコショウの凝縮した風味を持つ本物の「カチョ・エ・ペペ」とは別物だと強調。

 さらに、ローマの4大伝統パスタであるカルボナーラ、アマトリチャーナ、アッラ・グリーチャ、カチョ・エ・ペペは数世紀の歴史を持ち、どれも伝統は尊重されるべきものだと述べている。本物のイタリア料理の旗を掲げるのであれば、その作り方は忠実に守るべきという考えだ。

Text by 山川 真智子