フランスでおにぎりブーム 寿司、ラーメンに続き 本格化する日本食
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フランス・パリのスーパーの棚に並ぶのは、おにぎり。エスニックなコーナーに置かれているのではない。普通のサンドイッチの隣である。日本食はもはや一過性の流行ではなく、欧米の日常生活にすっかり定着している。庶民のランチからガストロノミーの世界まで幅広い層に浸透。海外からの観光客が本場で知るメニューに魅了されていることも、この傾向に拍車をかけている。そう遠くない未来、日本が世界の食文化を変えるかもしれない。
◆ヘルシーで手軽なランチにフランス人が行列
Onigiriと商品名がつけられ、ツナマヨ、サーモンなどの具が入った米をボール状にしたものに海苔を巻いた日本人のソウルフード、おにぎり。値段は一つ3ユーロから7ユーロ程度。最近の為替レートの1ユーロ=160円で換算してみると500円ぐらいはする。日本の物価からするとかなりの高級品となるが、今やフランス人がこぞって手に取っていく。
海外では日本食ブームが続いており、寿司やラーメンに次ぐ、日本の代表的な食文化として今、一番注目されているのが、このおにぎりなのだ。日本の企業はこぞっておにぎり専門店を世界各地に展開し始めている。
パリでは、『おむすび権兵衛 パレ・ロワイヤル店』がルーブル美術館にほど近いオペラ地区に6年前にオープン。ブームの先駆けを作った。オペラ地区は日本人街で、日本食の店が集中しており、オープン時は駐在員など日本人客をメインにしていた。しかし、今では昼時になると毎日フランス人の行列ができるほど様変わりしている。
おにぎりに限らず日本食が人気な一番の理由は、なんといってもヘルシーなこと。また、アニメ文化の影響もあるようだ。欧米ではテレビで放送される日本のアニメが大人気。日本の日常生活が描かれるなか、おにぎりを知ることが多い。
フィガロ紙では、「寿司に匹敵するおいしいおにぎり」といったタイトルの記事で、おにぎりが急速に広まったのは、食物繊維が豊富で中身によって1個あたり150~200kcalとカロリーが低いこと、と分析。「フランスも三角ダイエットに切り替えることは間違いない」と締めくくられている。
◆さまざまに進化する寿司、ラーメン人気
寿司はすでに市民権を得ており、パリやロンドン、ニューヨークのスーパーでも一般の売り場で売られている。今や、寿司が海外進出を果たした70年代ごろにはやったカリフォルニアロールなどの「なんちゃって寿司」から、パリで大人気の寿司店「JIN」などミシュランの星を取る本格派まで百花繚乱。手頃に食べられる回転寿司からスーパーのパック、高級寿司まで日本並みにそろっている盛況ぶりだ。
ちなみに、おにぎりの一つ前はラーメンの大ブームが起こり、欧米のラーメン店には大行列ができていた。
パリの三つ星シェフ、ギ・サヴォワまでもが、カジュアルなラーメン店「Supu Ramen」をセーヌ河沿いにオープン。理由はシンプルにラーメンが大好物だから。「『ラーメン』をヒントにフランス料理を発想する」ほど大きな役割を果たしているという。
同じく三つ星シェフのヤニック・アレノは、美しい歴史的建造物である自身の店「Alléno Paris」にフランス流の江戸前寿司カウンター「L‘ABYSSE(ラビス)」を設置してしまった。まもなく一つ星を獲得、大阪の「フォーシーズンズホテル」に逆輸入された。フランス発の寿司を日本人が喜んで食べる、というひと昔前なら想像もできなかった現象が起きている。
◆和の素材を使わないと評価されないガストロノミーの世界
さらには、洗練された高級料理を提供するレストラン、ガストロノミーの業界でも日本食は大はやり。今や和食材を使わないと時代に遅れているとみなされ評価してもらえないほどだ。
ある三つ星レストランで出された緑色のデザート。てっきりピスタチオを使ったものかと思い口にしたところ、なんとワサビだったことがある。味噌、醬油、みりんなどの調味料はもちろん、ゆず、だいこん、しそなどの野菜も外せない。「ウマミ」「イケジメ」などの日本語がフランスのハイエンドレストランの厨房では普通に飛び交っているのだ。
日本酒や日本茶も定着した今、次にトレンドになるのは納豆やぬか漬け、そして味噌など「発酵食品」だといわれている。遅かれ早かれ欧米のスーパーの棚に並んでいても誰も不思議に思わず、現地の人たちが手に取ることになるだろう。