フランス発グルメ格付け「ラ・リスト」は定着するか? アルゴリズムで公正に評価
◆金銭が左右する? スポンサーありきのレストラン格付け
食文化が成熟するにつれて、レストランの評価をするランキングが増えている。フランス発のミシュランは日本でもよく知られたレストランの格付けガイドの老舗。星の数で評価するシステムは1931年にスタートした。当初は、自動車普及に向けてドライブを楽しむために必要な情報を網羅した旅行ガイドブックであった。本業はタイヤを売る企業であるため、宣材として登場したわけだ。日本版東京も2008年にスタートし、年々地方版に拡大している。
現在、このミシュランとともに、ガストロノミー界の注目を浴びるアワードが、「世界のベストレストラン50」だ。世界の美食家や評論家など1000人以上の審査員によって選出され、世界5大陸27の国と地域におけるレストランの順位が決まる。こちらはイタリアのミネラルウォーターのメーカー、「サン・ぺレグレノ」がスポンサー。匿名調査であるミシュランとは異なり、各国の飲食店関係者や批評家など投票権者が過去18ヶ月内に訪れた自国とそれ以外の店に合わせて6〜10軒ずつ匿名で投票しランキング付けをする。ミシュランや世界ベストレストランの格付けには「金銭が左右する」と噂されているが、スポンサーありきではやむを得ない。
◆スポンサー、調査員なしの絶対的な公正を目指し考案
一方、スポンサーなしの権威あるレストラン格付けとしては、フランスの食ジャーナリストが1972年に始めた「ゴ・エ・ミヨ」がある。こちらは食の専門家が覆面調査員として味やサービスのみならず、ゲストの見送りまで子細にわたる項目を採点し格付けする。立ち上げ以来、スポンサーはつけず公平性を保って運営されてきた。日本版は2017年にスタート。美食家にとって比較的信頼できるガイドといえるが、調査員の主観が入ることは否めない。
そうした状況のなか、絶対的な公正を期すことを目的に考案されたのが、元駐日大使でもあるフィリップ・フォール氏がローンチした「ラ・リスト」である。フォール氏はもともと「ゴ・エ・ミヨ」のCEOであり、真にレストラン文化を愛する美食家だ。「ゴ・エ・ミヨ」にスポンサーがいなくても、調査員を使って採点することで私見が入り公平性に欠けるのではないか、とかねてから思いあぐねていた。そして、最も公正な格付けを模索したのが、「ラ・リスト」なのである。世界1010以上のガイドブックや出版物、SNS発信者によるレビューなどを集積し、0~100まで0.5点刻みでレストランを点数化する、という画期的なシステムを編み出した。全世界のメディアのアルゴリズムを集積してランク付けを行い、国際的なガイド評価の集大成を目指している。
さらには、世界中のレストランを予約できるスマートフォンのアプリのプラットフォームを考案。たとえ、砂漠の真ん中にいようと、適切なレストランをアプリが探してくれる、近未来のレストランガイドにまで発展させようとしている。
2024年は、世界200ヶ国4万軒以上のレストラン、パティスリー、ブーランジュリー、ホテルが主観なく平等に評価され、レストランとホテルは、世界1000軒がランキング化された。2025年版では、日本から126軒がノミネートされ、世界で最多となった。スイス、イギリス、アメリカ、日本、ドイツ、香港の8つのレストランが同率で頂点に立ち、日本からは「松川」が選ばれている。
◆ランキングを左右する「フーディー」という存在
また、「食」が旅の主たる目的となり、「ガストロノミーツーリズム」なる言葉が登場して注目を浴びている。ジャパンタイムズでは、日本の地方にあるファイン・ダイニングのリスト「Destination Restaurants」を選出したり、新潟県では、「新潟ガストロノミーアワード」を発表。旅をしてもわざわざ行くべきレストランをリスト化、ランキング化するなど、媒体や自治体がこぞってファイン・ダイニングの格付けを行っている。
そうした昨今の格付け乱立のなか、「フーディー」と呼ばれる「食の流行を追う人々」が、ランキングを左右していると言っても過言ではない。「フーディー」とは、美食を求めて世界中のレストランを巡り歩くといった純粋な目的を持った「食通」だけではない。格付けやランキングを追い求め、世界の果てにある店や予約難の店に行ったことを自慢したり、SNSで写真をアップすることが狙いの、本来の美食家とは一線を画す、言わば「モドキ」のような存在だ。
世界で一番ミシュランの星を持つレストランがある日本。食には並々ならぬこだわりを持つのが日本人だ。結局、何を信じてレストラン選びをすればよいのか? 美食の国、フランスが取り組んだ「ラ・リスト」は、その公明正大性を発揮して、信頼できるレストラン格付けを定着させることができるのだろうか。