パリ五輪、選手村の「エアコンなし」は無茶だったのか

パリ五輪の選手村|Michel Euler / AP Photo

 史上最も環境にやさしい大会を謳うパリ五輪だが、選手たちの部屋にエアコンがないことに、これまで各国から大きな懸念が示されてきた。エアコンを求める声があまりにも大きく、パリ五輪の組織委は、譲歩してポータブル・エアコンの使用を許可した。最も暑い大会になるという予測もあるなか、「エアコンなし」への賛否は分かれている。

◆気候変動と戦う 持続可能な取り組み強調
 パリ五輪では、二酸化炭素排出量をこれまでの大会から半減させる目標を掲げている。ディーゼル発電機をやめて再生可能エネルギーに切り替え、ガソリンを大量消費するバスに代えて電気自動車を採用。既存の会場を再利用し、リサイクルプラスチック製の座席を備えた再利用可能な会場の建設を約束した。

 選手村は環境に配慮し、エアコンを使わないように設計されている。7000室の部屋は、地下深くからくみ上げた冷水を使用する冷却システムにより、室外より少なくとも6度低いとされる26度に保たれることが保証されているという(AFP)。

◆夜眠れない…各国懸念を表明
 しかし、「エアコンなし」をめぐっては、各国のオリンピック委員会が以前から懸念を表明していた。近年パリは猛暑に苦しんでおり、選手たちが睡眠不足になる懸念がある。アメリカ・チームの生理学者は、最適な寝室の温度は16度から18度だとしており、温度が26度となれば、選手のパフォーマンスに影響が出る可能性があるとしている(ヤフー・スポーツ)。

 AFPによれば、選手村からの撤退を表明する選手団もいたとル・モンド紙が昨年報じていた。各国の「エアコンなし」への懸念を考慮し、パリ五輪組織委は妥協案として自費でのポータブル・エアコンの設置を認め、2500台のエアコンを発注した。
 
 アメリカをはじめ、カナダ、オーストラリア、ブラジル、イギリスなどがエアコンのレンタルをするとしており、日本、ギリシャもエアコンの計画があると発表している。一方、特にエアコンが普及していない欧州諸国のチームは、もともとの設定に満足しているという。(ヤフー・スポーツ)

◆エアコンが格差を生む? 依存しすぎとの指摘も
 科学者のスタン・コックス氏は、秒単位の勝負のためにトレーニングを積んできた選手が汗だくになる夜を恐れる気持ちは理解できるとしつつも、そもそも人体は調整できるものだと述べる。さらにアメリカでは9割以上の家庭にエアコンがあるが、多くの人がつけっぱなしで不在の部屋を冷やしていると指摘。エアコンに過度に依存する姿勢こそが問題だという考えを示している。(ヤフー・スポーツ)

 ヤフー・スポーツは、本当にエアコンが必要な熱帯気候にある国々には設置する余裕がないと指摘。パリ五輪が、エアコンなしで過ごす貧しい国よりも、エアコン代を払える国が有利になるという、現代の縮図になる可能性を示唆している。

 「アスリートの快適さは大切だが、それ以上に人類の存続を考えている」と言ったパリのイダルゴ市長を含め、環境面で模範になろうとしたパリ大会で妥協案を示さざるを得なかったことに、関係者は残念さを口にしているという。

 一方、ユーロニュースによれば、フランスの気象サービスは、全国的に夏の気温が平年を上回るとしており、極端な暑さがもたらす選手たちへの影響について懸念を表明したという。世界の気温が上昇するなか、五輪においては、選手の健康と環境への配慮のバランスが、課題として残りそうだ。

Text by 山川 真智子