なぜ人は肖像画に心乱されるのか…話題のチャールズ国王、豪富豪らの肖像画
イギリスのチャールズ国王、キャサリン皇太子妃、オーストラリアの大富豪と、いくつかの肖像画が話題を呼んでいる。アーティストの意図と、受け手の反応の間に生まれたギャップとは。
◆「衝撃の」チャールズ国王と「似てない」キャサリン妃
今月、イギリスのチャールズ3世国王の肖像画が公開された。高さ約2.6メートル、横幅約2メートルのキャンバスに描かれた国王は、実物よりも大きく、インパクトがある。しかし、何よりも衝撃的で目を引くのが、少しピンクがかったような鮮やかな赤に塗られた背景と、背景に溶け込んでいるウェールズ衛兵の制服を着て、顔だけが浮かび上がっている国王の顔である。血の海や悪魔を連想するというような声も上がっている。
🦋 The artist said of the experience of painting The King:
“When I started this project, His Majesty The King was still His Royal Highness The Prince of Wales, and much like the butterfly I've painted hovering over his shoulder, this portrait has evolved as the subject's role in… pic.twitter.com/U289q8AlMh
— The Royal Family (@RoyalFamily) May 14, 2024
この肖像画を描いたのはイギリス人アーティストのジョナサン・ヨー(Jonathan Yeo)で、故フィリップ殿下やカミラ王妃など、過去にもイギリス王室の主要人物の肖像画を手がけた実績がある。ヨーは2021年6月に作品に着手。約1時間ずつ、4回にわたって国王をモデルに直接描く機会があったという。
時を同じくして、キャサリン妃の肖像画も話題になった。英ファッション誌「タトラー」の表紙のために特別に手がけられた肖像画は、ザンビア生まれのイギリス人画家ハナ・ウゾー(Hannah Uzor)の作品。この作品は王室らしい気品が漂う青のバックグラウンドに、白いドレスを着たキャサリン妃がたたずんでいるという絵で、静けさと美しさが感じられる。しかし、顔が実物と似ていない、あるいは完成度が低いというような批判の声が高まった。
ウゾーは、アフリカ系ディアスポラにスポットライトを当てるような肖像画の作品で知られる画家。2023年に大学院で修士号を取得したばかりだが、すでに個展開催などの実績を持つ実力派。今回の作品は王妃本人を前に描かれたわけではないが、18万枚もの写真を参考にして描かれたものだという。
◆肖像画への期待
国王やキャサリン妃の肖像画への批判は、SNSなどで高まり、それがさらにメディアによって拡散されたもので、描かれた本人の反応ではない。一方、海の向こうのオーストラリアでは、オーストラリア国立美術館(National Gallery of Australia:NGA)に展示されている同国の長者番付ナンバーワンの実業家ジーナ・ラインハートの肖像画に関して、本人がNGAに対して取り下げるように要求し、話題を呼んだ。
作品はオーストラリアのアボリジナルの画家ヴィンセント・ナマジラ(Vincent Namatjira)が手がけたもので、ラインハートの肖像画は3月2日から6月21日まで開催中の個展に並ぶ、さまざまな肖像画の一枚だ。そのなかにはエリザベス2世やジミ・ヘンドリクスなどの著名人のほかに自画像も含まれる。色使いと特徴をデフォルメしたような作風は、すべての肖像画に共通した要素だ。
ラインハートは、ナマジラが描いた肖像画が必要以上に人目にさらされるのを避けたいという思いがあったようだが、異例の取り下げ要求がニュースに取り上げられ、より多くの人の目に触れるという皮肉的な結果になった。本件が報道される前はほぼゼロだった、ジーナ・ラインハートのグーグル検索数が急増し、NGAへの来館者も増えたそうだ。
話題を呼んだ今回の事例では、それぞれの受け手が個人的で感情的なつながりや違和感を覚え、反応している点が興味深い。著名人の肖像画は画家のアーティスティックな表現作品であるとともに、歴史的な記録としての政治的・社会的な意義を持つ。毎回注目が集まるアメリカ大統領の肖像画がその一例だ。デジタル画像があふれているからこそ、ある種、永久的で権威的な存在である肖像画がどのように表現されるかに対して、受け手は無意識に特定の期待を寄せているのかもしれない。