3人の日本人が受賞、ドイツの音楽賞「オープス・クラシック」授賞式に寄せて

Mo Wüstenhagen

◆オープス・クラシック賞の評判
 実は今回の取材を決めた後、周りからは「なぜ!?」という反応をされた。それはこの賞の評判に起因する。本賞はここ数年、社会から批判を浴びていたからだ。まず、授賞スタイルを取っているが、実際は音楽業界大手3社のドイツ・グラモフォン、ソニー・クラシカル、ワーナー・クラシックスがほぼ平等に自社の製品をPRできるように話し合った末での選出だとの批判は、以前からあった。そこへ、2017年のエコー賞受賞者であったドイツのラッパーの曲に、ホロコースト犠牲者を揶揄(やゆ)するような歌詞があったことで炎上し、複数の過去受賞者が賞を返上するなどのスキャンダルに発展した。

 物議を醸したラッパーのKollegahとFarid Bangのスキャンダルにより、たとえばクラシック界では、バイエルン放送クラシックが報道したように、ダニエル・バレンボイム、クリスティアン・ティーレマン、シュターツカペレ・ドレスデンも過去の受賞を返却すると発表した。

 そのため2018年からはオープス賞と改名することを余儀なくされた。改名した後も、たとえば昨年は、ユダヤ人ピアニストで人道活動家でもあるイゴール・レヴィットへの賞授与を任されたラッパーのDanger Danが、極右政党を名指しして「私はこの賛辞を(中略)テレビの前のすべての反ユダヤ主義者、人種差別主義者、反フェミニスト、そしてドイツのための選択肢(AfD)支持者へのメッセージで終えたい。『お前らは完全なバカだ』」とコメントして物議を醸し、放送時にカットされた経緯もあった(Netzpolitik)。

 その背景には、ドイツという国の犯した過去の過ち、それを真摯に反省して二度と繰り返さないために一貫して続けてきた戦後の政策、それでも危ういユダヤ人コミュニティとの関係といったものが見て取れる。ウクライナへの武器支援で揺れるなか、この日も公共放送ZDFで放映されることを踏まえ、司会者の言葉はユダヤ人の国イスラエルに寄り添う姿勢を強調していたように感じられた。

Text by 中 東生