日本のマンガのグローバル化が加速 マーベルとコラボ、ウェブトゥーン参入
デッドプールとオールマイトが出会う。
日米両国のスーパーヒーローがタッグを組んだ「デッドプール:SAMURAI」。日本のマンガのグローバル化を象徴付ける作品として、これ以上のものは恐らくないだろう。
「デッドプール:SAMURAI」は、マーベルヒーローのデッドプールが、全世界で6500万部売れた日本のマンガのヒット作「僕のヒーローアカデミア」に登場するマッチョなヒーロー、オールマイトの助けを借りながら悪との戦いに挑むストーリーだ。
昨年日本語で出版された「デッドプール:SAMURAI」。今年2月には、その英訳版が出版された。去年最も売れたマーベルコミックは、この日本発の「デッドプール:SAMURAI」だった。そのオンラインでの閲覧数は100万回以上を記録。マーベルと日本の「少年ジャンプ」が、史上初めてパートナーシップを組んだ形だ。
「デッドプール:SAMURAI」の原作者である笠間三四郎氏は、以前からマーベルヒーローが大好きだった。日本人のデッドプールファンをもっと増やしたいと常々考えていたところ、この仕事を担当できることになって本気でワクワクしたという。
同氏はAP通信に対して「『はい!はい!やりますやります!』って言いましたよ。本当にやりたいと思いました。デッドプールみたいな漫画を作りたいとずっと思っていた自分が、まさかその企画をやるとは思いもしなかったです。本当にワクワクしました」と語る。
笠間氏によると、難しかったことのひとつとしては、マーベル側がキャラクターイメージを守ろうとして、「このデッドプールの行動はキャラクター像から外れている」などと、何度もダメ出しをしてきたことだった。たとえば、デッドプールが誰かを撃つひとつのシーンでは、そこで使用する銃をペイントガンに変更する必要に迫られたという。
「デッドプール:SAMURAI」は笠間氏が原作、植杉光氏が作画を担当している。ただし、オールマイトが登場するシーンに限っては、このキャラの原作者である堀越耕平氏の手によるドローイングを使った。日本のマンガの出版事業と日本のアニメの配給事業をアメリカで展開するビズメディアとマーベルによる、初のコラボレーション作品となる。
「僕のヒーローアカデミア」をはじめとする日本のマンガはその売上において、アメリカ市場のグラフィックノベルのカテゴリー中、成人向けフィクションカテゴリではトップの人気ジャンルに急成長した。この業界のトレンドを追跡しているNPDグループによると、その売上は2021年に前年比160%にまで跳ね上がった。この成長スピードはじつに、成人向け書籍市場全体平均の15倍のスピードだという。
サンフランシスコを拠点にリサーチとコンサルタント事業を手掛けるグランドビューリサーチによると、日本は2020年の時点においても世界最大のマンガ市場であり、そのシェアは世界の45%。しかし、日本以外の各国市場も急速に追い上げてきている。2020年に235億ドル規模と評価された全世界のマンガ市場は、2028年には480億ドル規模にまで急拡大するとの予想だ。
沖縄の少女をメインキャラクターとするマンガ「Hymn of the Teada(ティーダの讃歌)」。作者のジュリア・メクラー氏によると、この作品に対して日本の複数の出版社は「ニッチで政治的な作品」との評価しか与えなかった一方、アメリカの出版社の一つが強い関心を示したという。
同氏は自分の作品を通して、第二次世界大戦末期に凄惨な地上戦の舞台となった、日本の南西に浮かぶ沖縄のために声をあげたいと望んでいる。
沖縄出身の母とアメリカ人の父を持つメクラー氏は「沖縄の美は、そこに住む人々が心から平和を大切にしている部分にあると思います。私は平和こそが、世界で最も大事なものだと教わりました。平和と命。それはありきたりな言葉のようにも聞こえますが、世界に目を向けると、実際にそれを守ることは本当に難しいのです」と語る。
同氏は、日本のマンガと外国の作品の垣根は次第に取り払われていき、マンガの世界のグローバル化がさらに加速すると考えている。
「anime」の名で知られる日本発のアニメは、現在ネットフリックスでも人気を集めている。「鬼滅の刃」や「進撃の巨人」などのアニメ作品は、もともとはマンガ作品として出版された。フールーやディズニープラスなど、そのほかのストリーミングサービスと同じく、ネットフリックスも今後はさらに多くの日本のアニメを配信していく計画だ。
また、東京で暮らす普通の人々の不倫をテーマにした「金魚妻」のように、ネットフリックスの実写ドラマのヒットシリーズのなかには、マンガ原作に基づく作品もある。そういった作品がいま、日本だけにとどまらずアメリカをはじめとする世界中の視聴者を魅了している。
同じくネットフリックスの人気作品、ゾンビで溢れる高校を舞台にしたドラマ「All of Us Are Dead(いま、私たちの学校は…)」の原作は、韓国発のマンガメディア、ウェブトゥーンの作品だ。
これまで長きにわたってキンドル、アップルブックス、グーグルプレイなどのプラットフォームを通してオンラインで読むことができた従来型のマンガ作品に対して、ウェブトゥーンは携帯電話端末で読むスタイルに特化している。マンガのコマを縦一列に配置して、読者が指で軽く触れるだけでパネルがスクロールする仕様だ。
ページ単位で構成された従来型のマンガでは、ひとつのコマの絵から次のコマの絵とあちこち移動しながらストーリーが展開していく。日本のマンガファンのなかには、オンラインであってもこの昔ながらのマンガの読み方を好む層もいる。しかし若い世代は、ウェブトゥーンのスタイルでマンガを楽しむことにも素早く順応しているようだ。
ウェブトゥーン・ワールドワイド・サービスには、2004年に設立された韓国のネイバーウェブトゥーン、日本のLINEマンガ、そしてアメリカ、ヨーロッパ、そのほかの国々のサービスが結集している。最近ではひと月あたり8200万人のユーザーが利用しており、とりわけアメリカでの成長が著しい。
ラインデジタルフロンティアの執行役員として、日本のウェブトゥーンビジネスを牽引する平井獏氏は「ひとつのプラットフォームとして、当社は最高の制作環境を提供し、アーティストたちに利益をもたらしたいと願っています。もちろん、多数の読者の獲得と収益面も含めてのことです。当社のプラットフォームに作品を掲載することで、日本の内外でその作品が読まれます。世界的ヒット作となるチャンスもあります」と語る。
韓国から20年遅れのスタートではあるが、ウェブトゥーンは確実に日本に根を下ろしつつある。
東京に本拠を置くソラジマスタジオは、さまざまなプラットフォーム向けにウェブトゥーン作品を制作している。代表取締役社長を務める萩原鼓十郎氏によると、ウェブトゥーンと日本のマンガ、双方の「良いとこ取り」をした作品が日本で開発されつつあるという。
同氏は「私たちが求めているのは、普段はウェブトゥーンを読まない人でも興味を持ってくれるような大ヒット作品です。そのためには、ネットフリックスやアマゾンプライムでシリーズ化されるウェブトゥーン作品を創り出すことが必要です」と話す。
2021年創業のスタートアップであるソラジマスタジオは、集英社や小学館など古くからある日本の大手漫画出版社から投資を獲得。スタジオとしてこれまで3作品を制作し、そのうちひとつはアメリカで出版されるなど、どの作品も収益性を確保している。年内には26作品、来年にはさらに50作品の制作を計画しているという。これが実現した場合、その生産性においては韓国のウェブトゥーンスタジオにも引けを取らない。
萩原氏は「何もかもがとても順調に進んでいますよ」と話す。
By YURI KAGEYAMA Associated Press
Translated by Conyac