ドイツ書籍業界の「平和賞」受賞 ジンバブエの作家ダンガレンブガとは

David Clarke, Ayebia Clarke Publishing Ltd / Wikimedia Commons

 ドイツ図書流通連盟平和賞評議会は6月21日、ジンバブエ出身の作家・映画監督ツィツィ・ダンガレンブガ(Tsitsi Dangarembga、62歳)を今年の受賞者に選出した。ジンバブエで最も重要な作家、劇作家、映画監督として知られるダンガレンブガは、三部作の小説のなかで、自国における尊厳ある生活を送る権利と女性の自立を求める闘いを、思春期の少女を例に挙げて描いている。授賞式は10月24日にフランクフルトのパウルス教会で行われる。

◆受賞者は書籍と平和貢献者へ
 平和賞は1950年に設立され、ドイツ図書流通連盟(以下BDB)によって授与されており、2万5000ユーロ(約320万円)の賞金を受賞者へ贈呈。受賞者は平和賞評議会の審査員9名により選出される。同賞の規約によると、純粋な文学賞ではなく、「平和の理念の実現に顕著な貢献をした」科学や芸術の代表者に授与されることが明記されている。

 とくに文学、科学、芸術の分野で卓越した活動を行い、この理想に貢献した個人を表彰することにより、国際的な寛容を促進している。平和賞授賞式は、毎年10月半ばにフランクフルトで開催される書籍とマルチメディアの見本市「フランクフルトブックフェア」の最終日に行われる。

 BDBは、ドイツ国内の出版社、取次、書店を統合し、図書取引事業の利害を代表する団体だ。ブックフェアをはじめ、書店員を育成するキャンパスも運営している。

 平和賞評議会は、今年の受賞者選出理由を以下のように発表した。

 ダンガレンブガは、世界的に大ヒットした作品三部作のなかで、ジンバブエで女性の自立を目指す少女タンブの成長と人生を描いている。ユニークな物語と普遍的な視点を組み合わせており、自国の最も重要な芸術家の一人であるだけでなく、現代文学におけるアフリカの声を広く訴え続けている。

 作品にはジェンダー、植民地主義、人種差別の複雑な抑圧のメカニズムを書き綴り、ダンガレンブガの自伝的な言及も含まれている。これにより、地域を超えた社会的・道徳的な対立を明らかにし、世界的な正義の問題への共鳴の場を切り開いた。

 ダンガレンブガは、作家・映画監督の活動のほかに、ジンバブエにおける自由と女性の権利、そして政治的変革を推進するために、長年にわたって活動してきた。

 なかでも世界共通の普遍的な問題である「貧困、ジェンダー、階級」をテーマに掲げ、抗議活動を続けている。そのメッセージは、ジンバブエだけでなく、近隣諸国の幅広い層に向けて伝統と近代の衝突から生じる問題をとりあげ発信している。

Text by noriko spitznagel