アカデミー賞受賞『オクトパスの神秘』の舞台裏 タコとダイバーの「友情」を描いたドキュメンタリー
ネットフリックスの映画『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る(My Octopus Teacher)』が、ドキュメンタリー部門で本年度のアカデミー賞を受賞した。この映画は、南アフリカのネットフリックス初のオリジナル・ドキュメンタリーで、国内外で注目を集めている作品だ。ケープタウンの海を舞台に、少数精鋭チームが手がけた作品が成功に至るまでのストーリーとは。
◆タコと人間の親密な関係を描いた映画
2020年にネットフリックスで配信が開始された『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』は、映画製作者のクレイグ・フォスター(Craig Foster)が、南アフリカ・ケープタウンのフォルス湾の海藻の森(Great African Seaforest)に生息する一匹のタコと親密な「友情関係」を築き、毎日ダイビングを繰り返し、タコを通じて海の世界を再発見するストーリーを描いたドキュメンタリー作品。映画は、フォスター自身が立ち上げた、海の生態系を保護するための発信活動を行う団体、シー・チェンジ・プロジェクト(Sea Change Project)を通じて、環境ジャーナリストの妻、スワティ・ティヤガラジャン(Swati Thiyagarajan)とともにプロデュースした。共同監督は、海洋保護専門のジャーナリスト兼映画製作者のピッパ・エアリック(Pippa Ehrlich)と、ベテラン映画製作者のジェイムズ・リード(James Reed)が務めた。
フォスターは、映画製作者として多忙な日々を送っていたが、あるとき、その生活に疲れ、燃え尽きてしまったという。そして、子供のころにケープタウンの海に潜り、海藻の森で過ごしていたことを思い出し、改めてまた自然とつながりたいという強い思いから、海に潜り始めた。ケープタウンの海は、その荒波で知られる危険な海だが、フォスターはウェットスーツや酸素ボンベなしで行うスキンダイビングにこだわっている。さらに、マイナス8度まで下がることもあるケープタウンの海に、毎日欠かさず潜るというルーティンを続けた。ウェットスーツを着ないことで、水の温度を直に感じることができ、自然により近づくことができるとフォスターはいう(NPR)。
毎日ダイビングを続けるなか、フォスターはあるとき、一匹のタコを発見する。そして毎日そのタコを訪問するうちに、タコとの距離を縮めていく。不思議なことに、タコのほうも徐々に警戒を解き、まるでフォスターに海の世界を案内するような行動をとっていくようになる。ドキュメンタリーでは、フォスターとタコの関係が、ただの信頼関係から、より親密な関係に発展していく様子が、映像とフォスターの語りを通じて伝えられる。よくある自然を題材にしたドキュメンタリーは、生き物の世界が客観的に描かれることが多いが、『オクトパスの神秘』は非常に主観的で感情的な作品だ。
映画は、米国アカデミー賞以外にも、英国アカデミー賞、全米製作者組合賞(Producers Guilt of America:PGA)、放送映画批評家協会賞(Critics’ Choice Awards)のドキュメンタリー賞をはじめとする数多くの賞を受賞し、多くのノミネートも獲得している。
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