エンタメ・カルチャー界に希望をもたらすスペインの試み

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 パンデミック拡大防止のため、世界の多くの国では、コンサートや劇場の営業が制限されている。欧州でも、カルチャーイベント停止を続ける国がほとんどだ。そんななか、例外的にコンサートを開き続けているのがスペインの首都マドリードだ。感染予防とカルチャーのバランスはどのように保たれているだろうか?

◆マドリード市の大胆な政策
 マドリードでは、6月にはカルチャー部門を再開し、第2波が強く押し寄せた秋以降も閉鎖していない。ちなみに、隣国のフランスでは、夏には一旦緩和された制限策も、秋の第2波から再び強化され、カルチャー関係の活動はほぼ等しく停止され、いまのところ再開時期の目途もたっていない。コンサート、劇、オペラ、バレエ、すべてが開かれているマドリードは、欧州内でも例外中の例外といえる。しかも、「この半年、(カルチャー部門での)クラスターは発生していない」とマドリード地方政府の文化観光アドバイザー、マルタ・リベラ・デ・ラ・クルス氏は胸を張る(ル・モンド紙、2020/12/20)。

 文化イベント開催条件として課される感染対策は「観客のマスク着用義務、予約ごとの個人あるいはグループの間に空席を保ち、席は最高75%までしか埋めない」というものだ(ル・モンド紙)。また、マドリードのオペラ座で公演が続く『ドン・ジョヴァンニ』の様子を伝えたニュース専門局「フランス・アンフォ」は、観客がまず体温検知器の下を通ることや、一公演ごとにUVライトで座席が消毒されることにも触れている。演者側も慎重だ。演奏者間には透明板が置かれ、オーケストラのスペースを広げるため、座席2列分が取り除かれた。もちろん、役者は舞台に上がる直前までマスクを外さない。主役のバリトンは2日に1度、それ以外の役者は毎週感染テストを受けるという徹底ぶりだ。同番組のインタビューに、ドン・ジョヴァンニを演じるバリトンのクリストファー・モルトマンは、「定期的にテストを受けるだけでなく、責任感を持って人とのコンタクトを減らし、外出を避け、健康でいるようにと言われている」と答える。それでも、チェリストのラクール氏が代弁するように「(活動ができることは)特権ともいうべき大きな幸運」であろう。パンデミックによるカルチャー部門の損失は、スペイン全土で10億ユーロと見積もられているが、マドリードはそのなかでも影響が最小で済んでいる地域だ(同)。

Text by 冠ゆき