「アート・パリ」開催 コロナ下で初の国際アートフェア
新型コロナウイルスのパンデミックを受け、3月以降、今年の国際的な主要アートフェアの中止が相次ぎ、数十億ドル規模とされるアート業界における商業の大動脈が断たれようとしている。
しかし9月10日、フランスで2番目に大きな現代アートのフェア、「アート・パリ(Art Paris)」がグラン・パレで開幕し、数千人規模の来場者を呼び込んだ。4日間にわたるフェアは、国内でコロナウイルスへの感染が広がるなかでの決行となった。
世界各国でコロナウイルスが流行し、航空便が運航停止となり、ロックダウンが実施されるなど商業活動が大きく制限されるようになった。それ以降、実際に会場を設けて開催される大規模な国際的アートフェアはアート・パリが初である。
コロナウイルスのパンデミックが発生する前の2019年には、世界のアート市場はおよそ640億ドルの規模を有するとされていた。
アート・パリのゼネラル・キュレーターを務めるギヨーム・ピエンス氏はAP通信の取材に対し、「何の活動もできない期間が半年も続いたいまこそ、ギャラリーとコレクターが出会える場はとても重要なものですから、今回のフェアを開催すべきだと強く思いました。ご存知のように、すべてが停止してしまったのです。だから、フェアの開催はどうしても不可欠です」と語っている。
主催者はリスクがあることは認めたうえで、感染がないまま無事に日程を終えられることを願いつつ、クラスターの発生する恐れが少しでもあれば、参加ギャラリーから隔離できるよう保健チームを配備した。
「グラン・パレの敷地は広大ですから、密閉空間だと指摘されることはまずないでしょう。天井の高さは45メートルを超えます」と、ピエンス氏は述べている。
しかし第2波への懸念が広がるなか、このような大規模なフェアが開催されることについて、フランス国民は不安を示した。
会場近くを歩いていた26歳の教師、カレル・ドゥブロ氏は、「本当ですか?病原菌や細菌をまき散らしてしまうのに、そんなにたくさんの人を集めようとするのは、あまり良識的だとは思えません。ほかのフェアにならって、今年は中止という訳にはいかなかったのでしょうか」と話している。
パリ在住の31歳で、無職のマリー・ピエール氏は、「とんでもないアイデアです。フランス政府は承知したのでしょうか?」と疑問を呈している。
アート・パリはもともと4月に開催予定だったが、9月10~13日の日程の方が妥当と判断された。
オープニングには、昨年は1万7000人だったのに対し、約6000人がマスクを着用して出席した。今年は15ヶ国112のギャラリーから集まった売り手とその作品が参加することになったが、途中あちこちに手指消毒用のボトルが置かれ、狭いスペースに人がかたまらないよう注意を促す標識も設置された。ギャラリーのオーナーや運営のなかには、規制の下でも何かしら楽しい演出をしようと、アート性を盛り込んだ華やかなマスクをつける人もいた。
5月の「フリーズ・ニューヨーク(Frieze New York)」を始め、今年のアートフェアの多くが開催を見送られることになったきっかけは、3月の「TEFAFマーストリヒト(TEFAF Maastricht)」が早々に中止となったことだった。オランダで行われた同フェアで、出展者の1人がコロナウイルスに感染したためだ。その後、出展者と来場者の少なくとも24人がウイルスに感染していたことが判明した。スイスの「アート・バーゼル(Art Basel)」や、「フリーズ・ロンドン(Frieze London)」、マイアミビーチの「アート・バーゼル」といったフェアもまた、パンデミックを受け中止を迫られた。
ロンドンにある「ギャラリー・ローゼンフェルド(Gallery Rosenfeld)」のイアン・ローゼンフェルド氏は、「3月以降、世界のどこにおいても大規模なアートフェアが開催されることはありませんでした。アート・パリが初です。業界が切望するなか、危機的な状況下ではありますがフェアが実現していることを、とても幸せに思います」と話している。
フェアに出展するにはリスクがあるものの、アート業界の多くが、活動を再開するほかに道がないと言う。アテネ「Pギャラリー(P Gallery)」のエレン・ヴァン・ハイニンゲン氏もその1人だ。今回のフェアについて同氏は、「とてもいいアイデアだ」と評価している。
「フェアでは対策が講じられています。広いスペースも確保されています……いつまでも待っているだけでは、生きていけません」と、ハイニンゲン氏は言う。
さらに強い意見もある。
「Hギャラリー(H Gallery)」のディレクターを務め、アート・パリに出展しているエリオント・ボルドー・モーラン氏は、「ギャラリーやアーティスト、企業にとっては、生きるか死ぬかの状況です」と訴える。
コロナウイルスにより旅行や集会に対する規制が設けられたことで、多くのフェアが開催できなくなった。飛行機を常用し、何千マイルもの距離を定期的に飛びまわるタイプのコレクターにはとくに大きな痛手だ。
「何十億ドル、何十億ユーロと、通貨を問わず各国で損失が出ています……誰も飛行機を利用できないいまだからこそ、アートフェアが開催されるのはとても重要なことです。ギャラリーは、コレクターと出会う場がありません。渡航制限があるなかで、サポーターを見つけるのはとても難しいことです。だから皆が1ヶ所に集まることができ、業界の存続に向けて動けるのは、本当に素晴らしいことです」と、ボルドー・モーラン氏は言う。
比較的小規模なギャラリーは、とくに打撃を受けやすく、破産や閉鎖に追い込まれているところも多い。
アート・パリは、これを深刻な問題と捉えている。その証拠として、参加中の若手ギャラリーに支援が行き届くようなイニシアチブを策定した。今年のチケットの売上利益を、もっとも若い層のギャラリーに全額渡し、危機を乗り越えられるよう支援すると発表したのだ。支援の対象となるボルドー・モーラン氏は、今回の措置を「前代未聞」だと言う。
By THOMAS ADAMSON Associated Press
Translated by t.sato via Conyac