スペインの牛追い祭り、角でのど突かれた米国人「命の危険感じた」

AP Photo / Alvaro Barrientos

 スペインで闘牛と走っている様子をセルフィー(自分撮り)し、記念に残したい。このような願望を抱いたがために、アメリカ人弁護士はあやうく死にかけるところだった。決して忘れることはないと話す。

 今から100年近く前、アメリカ人作家アーネスト・ヘミングウェイによる小説の舞台となり、不朽の名声を得た「サン・フェルミン祭」が今年も開幕した。1日目の牛追いに参加したサンフランシスコ在住のジェイム・アルバレス氏は、突進する牛に押し倒され、のどを突かれた。

「闘牛場にいることの喜びと興奮は、すぐに恐怖に変わりました。実際に命の危険を感じたのです」と、アルバレス氏(46)は話す。翌日の7月8日、この地域の病院で手術を終え、回復に向かっているところだ。

 医師からの説明では、牛の角がのどの深い部分に達しており、頬骨の一部が砕かれていたという。頸静脈や主幹動脈を避けていたことは「奇跡の域を超えている」ことだと伝えられた。

 カリフォルニア州サンタクララ郡で国選弁護人を務めるアルバレス氏は、7月7日朝、牛と衝突した。首を触った手が血まみれになった時、その傷のひどさに気づいたという。

「数秒の間に、ありとあらゆることが頭をよぎりました。死についてもはっきりと意識しました」と話す。

 アルバレス氏は、命に別状はないとわかると、牛追いに参加したことについて妻や娘からとがめられた。夫妻の息子が出場するサッカートーナメントに向かう途中、有名なサン・フェルミン祭を見ようと、3人でパンプローナへ立ち寄った。

 娘と妻に牛追いに参加しないよう念押しされていたものの、開幕初日、パンプローナの街中にみなぎるエネルギーに、いても立ってもいられなくなったと話す。

AP Photo / Alvaro Barrientos


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 人口20万人の街で行われる牛追いと、9日間尽きることなく続くにぎやかなこのイベントには、毎年およそ100万人が訪れる。外国からの多くの観光客が思い描くのは、ヘミングウェイの足跡をたどることだ。1926年の小説「日はまた昇る(The Sun Also Rises)」は自らの体験を題材にしている。

 健康状態や睡眠時間もさまざまな数百人のランナーが、パンプローナ闘牛場に向けて、バリケードが施された石畳の街路を突進していく牛たちの前や横を走る。1910年からこれまでの死亡者数は16人だとされる。

 全長850mのコース中、アルバレス氏はほぼ、牛たちの前方を走っていたと話す。しかし、牛が集団になってゴールの闘牛場に入る頃までには追いつかれていた。

 身を守るためにフェンスに上ったが、危険が去ったと思ったので、わずかな時間で動画を撮るために闘牛場へ引き返した。「『牛追い祭りにやって来た、無事やり遂げた』と伝える5秒間の動画」を撮りたかったのだ。

 ちょうどそこに、コースから外れた牛が駆け足でやって来た。パンプローナの牛追いで起用される牛は、体重500-600キログラム級であることが多い。

「その衝撃はこれまで経験したことのないものでした。車かトラックに追突される感じでしょうか。本当に怖かった。私はひどく取り乱し、愕然としていました。どの方向に行くべきかわかりませんでした」と当時を振り返る。

 誰かに腕をつかまれたまま人込みを押し分けて進み、救急医療隊員へと引き渡された。アメリカ人の命は何とか救われた。

 7日に行われた緊急手術は2時間半を要したが、容態が安定しているため、2日後には退院できるかもしれないとアルバレス氏は話す。パンプローナに戻り、牛追いではなく、観客として祭りを楽しもうと心に決めている。

 この祭りでは、ほかにもアメリカ人2人が今年の牛追いで負傷している。ケンタッキー州フローレンス在住のアーロン・フローリチャー氏(23)は、背後から迫ってきた牛によって空中に放り投げられ、角で左大腿部を突き刺された。そしてその様子はビデオ映像に残されていた。

 2日目の牛追いは2分23秒間続き、伝統的に気性が荒いとされるセバダガゴ牧場の牛たちが出場したにもかかわらず、重傷を負う参加者はいなかった。人慣れした畜牛が、コース上の大部分において闘牛たちを囲み、ランナーらは角に近いわずかなスペースを奪い合っていた。

 この日は19歳女性を含む3人のスペイン人ランナーと、48歳のアメリカ人観光客が打撲傷を負い、病院で治療を受けた。

 赤十字社の広報担当者によると、背中を牛の角で刺されたためその場で治療を受けた男性もいるという。

ÁLVARO BARRIENTOS and ARITZ PARRA Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP