グッチ、中絶の権利について声を上げる 20年クルーズ・コレクション

AP Photo / Andrew Medichini

 アメリカで人工妊娠中絶をめぐる議論が再び白熱するなか、先日開催されたグッチの2020年クルーズ・コレクションでクリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ氏が、人工妊娠中絶の権利についてメッセージを明確に示した。

 ローマのカピトリーノ美術館で5月28日の夜、エルトン・ジョンやナオミ・キャンベルなどのセレブリティを含むVIPに向けてコレクションが披露された。フェミニズム運動のスローガンである「My Body, My Choice(私の体は、私が決める)」が背中に施された紫色のジャケットや、イタリアで中絶が合法化された日付である「May 22, 1978(1978年5月22日)」の刺繍が入ったセーターがコレクションを印象づけた。ベルトの付いたドレスには、花をモチーフにデザインされた子宮の刺繍が施されていた。

 ミケーレ氏はアメリカで新たに成立した中絶禁止法を受け、「女性に対してどれほど高い敬意を表するべきか、考えさせられた」と話す。

「人生はときに、難しい選択を迫られる。まさに中絶は、女性にとってもっとも苦しい決断だと私は考えている。その決断を私は尊重する。子宮は庭園なのだという着想を大切にするように、私はその決断に敬意を示す」と、ショーを終えたミケーレ氏は報道陣に語っている。

「妊娠を中断しても庭園や花を台無しにしてしまうわけではない、ということを表現したいと考えた。それは女性たち自身の子宮なのだ」と話す。

 ミケーレ氏は故郷ローマに想いを寄せ、古代ローマ時代の遺跡「フォロ・ロマーノ」を見渡すカピトリーノ美術館をグッチの2020年クルーズ・コレクションの舞台として選定した。同氏の旧世界との対話は継続されている。過去2度のクルーズ・コレクションは、フィレンツェのピッティ宮殿にあるパラティーナ美術館や、フランスの都市アルルにあるアリスカン遺跡で開催され、ファッション界の誰もがその世界に魅了された。

 ミケーレ氏がイメージするショーは、ロンドン地下街で繰り広げられるどんちゃん騒ぎのようなものだ。言い換えると、何でもありの場所である。ゆらめく灯りやフラッシュライトのなか、モデルたちは古代彫像の横を通り抜け、闊歩した。ショーの幕開けは、クリスタルをあしらった目を見張るような美しいヘッドドレスと黒のロングスカート、ベルト付きトップスのルックが登場し、ピンク色の古代ローマ風トーガ(外衣)をまとった赤毛のモデルが続いた。

 ルネサンス風ドレスにドレープ付きヘッドスカーフを組み合わせたファッションや、格子模様のAラインのウールコートにベレー帽を合わせたルックが披露された。そのほか、レーススリップで肌を露わにしたフラッパーハット姿のモデルや、判事風の襟が付いたローブを着用したモデルが巧妙な順序で登場した。

 フローレンス・ウェルチをはじめとするロックスターの人気に応えるべく、コレクションにはグッチ柄のギターケースも登場。パールがあしらわれたグローブを付けたモデルがギターを手にし、ランウェイを歩いた。アクセントとして、ローマ神話の神々が彫刻されたジュエリーや翼の形をしたサングラスが用いられた。

 コレクションでは「Chime(チャイム)」のロゴが入ったTシャツも紹介された。この「Chime For Change(チャイム・フォー・チェンジ)」はグッチが2013年に設立した基金であり、生殖に関する権利、妊産婦の健康、個人が自由に選択する権利に対する支持を表明している。

 アレッサンドロ・ミケーレ氏がホストを務めたメットガラでは、今年のテーマである「キャンプ」ファッションで人々を魅了し、グッチは大きな成功を収めた。一方で、ターバンがアメリカのシク教徒から非難を浴びるなど、文化的な観点から無神経だとされるファッションが物議を醸してきた。2019年2月にはバラクラバセーターが多くの人にブラックフェイスを想起させたとして、グッチは謝罪を行っている。

By COLLEEN BARRY AP Fashion Writer
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP