「ルーヴル」使用に5億ドル超 フランスの強力なブランド外交戦略

Kamran Jebreili / AP Photo

 帝国が凋落するとき、ブランドが興隆する。

 ナポレオン的帝国建国とフランス語支配による繁栄がすでに過去のものとなったフランスでは、急速に変化するグローバル世界において、文化的影響力を行使する新たな方法を磨いてきた。それはブランド外交だ。

 先週末のルーヴル・アブダビのオープンは、伝統的なフランスの文化外交がどのようにブランド戦略にシフトしたのかを示す好例だ。アブダビは5億ドル以上の対価を払い、30年以上にわたってパリの著名な美術館名称を使用する権利を得た。

 この「ソフトパワー」の例は、現在計画中の上海ポンピドゥー・センターのような文化施設名称だけにとどまらず、ソルボンヌの学術的名声の輸出、アジアへのクリスチャンディオール・ブティックの展開、ますます人気を集めるモエ・エ・シャンドンのシャンパン、 カリスマシェフのアラン・デュカス氏の料理や、ルイ・ヴィトンのブランドハンドバッグにまでみられるものだ。

「ナポレオンのように、かつては軍事力が用いられました。しかし今日は、軍事以外の海外への影響力行使の手段があります」。国連の文化部門であるユネスコの大使、ローラン・ステファニーニ氏はAP通信に語った。

「ビッグネームをもつ組織が、その組織自体を輸出しているということです。――その製品、コレクション、そしてその知見とノウハウを」。彼はそう付け加えた上で、近年、フランス外務省が一貫した戦略として、贅沢と美食を通じてフランスを売り込む事業を強化していることに言及した。

 ルーヴル・アブダビ事業立上げの際には、フランスの文化遺産の商業化に対する批判の声も一部上がった。しかし現在では、自国の美術館や瀟洒な伝統の名声をビジネス化し、フランス文化の魅力を伝えようとするフランスの努力を批判する声は、ほぼ聞かれなくなった。

「ここ数年は、民間部門がより重要な役割を果たしています」。今でも影響力のあるフランスの元文化大臣ジャック・ラング氏は、インタビューの中で語った。彼は現在、パリのアラブ世界研究所のトップを務めている。

 サンローラン、ディオール、ヴィトンとともに、数多くのシャンパンやリキュールの巨大な親会社であるケリングとLVMHは、世界すべての地域の高級品市場をほぼ独占し、2016年には 2社合計で58億ドルの売り上げを記録した。

「外国の人々は、現在、ブランドや名称をもってフランスを認識していると言えるかもしれません。それでもかまいません。それらをきっかけとして、人々はフランスの文学や、多くの領域で進歩を続ける技術分野にまで興味を広げてゆくでしょう」。ラング氏はそのように続けた。

 ラング氏はまた、フランス語学校のリセー・フランセなど、英語の世界支配に対抗してフランスの言語と文化を海外発信する従来手法への予算を、フランス政府が過去10年以上にわたって削減してきたことにも言及した。

 シェフやデザイナー、文化施設の管理者たちは、自分たちが新時代の文化大使であることを強く自覚している。

「ルーヴル・アブダビは、フランスの叡智とルーヴル美術館の名声が世界に認知されているという証明です。ですから、ええ、私たちはルーヴルの名前がそのように価値をもち、それによってフランスが新しい方法で世界に語りかけられることを非常に誇りに思っています」。ルーヴル美術館長のジャン=リュック・マルティネズ氏は、AP通信にそう語った。

 ファッションデザイナーのジャン・ポール・ゴルチエ氏は、高級衣料の役割が変化し、自分たちが作るものが国家を代表する傾向がどんどん強まっていると述べた。

「服は、視覚的に語りかけ、フランスの知見とノウハウを端的に表す大使のようなものです」とゴルチエは語った。

 ミシュラン・シェフのアラン・デュカス氏は、「美食はフランスのイメージの一部なのです。それは、事実として受け入れなければなりません」と述べた。

 シャンパンのコルクを飛ばす音が、数十か国の大使の集うベルサイユ宮殿全体に響きわたった。フランス外務省は2015年、毎年開催される世界規模の新たなフランス料理イベント「グード・フランス」を立ち上げるにあたってデュカス氏を起用し、その名声を利用した。     

 北京からリオデジャネイロ、フランス国内に至るまで、世界五大陸から集まった数千人のシェフたちが、一同にステーキ用のタルタルソースを刻み、フォアグラに塩をまぶし、クリームブリュレの表面を炙った。

 一見すると、単なる陽気なイベントに過ぎないように見える。だが、実際にはそれは、フランスが今後、美食、文化、高級品のブランドを通して自国を海外に売り込んでいくという、前外相のローラン・ファビウス氏のもとで開始された戦略シフトがはっきりと形をとった瞬間だった。

 フランスの戦略は英国海峡を越え、対岸のイギリスにも波及した。世界的な影響力を維持するためには、イギリスも、自身の文化についてフランスと同様の戦略をとる必要があると一部で考えられるようになったのである。

 ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館のディレクター、トリストラム・ハント氏は、英国メディアへの最近の寄稿の中で、ルーヴル・アブダビのオープンはヨーロッパの文化的影響力のバランスシフトのメルクマールであり、EU離脱後のイギリスも、同じ方向に沿って考えなければ影響力を失うだろう、と書いた。

「大英博物館やヴィクトリア&アルバート博物館をはじめとする大規模なイギリスの文化施設もまた、同じように追随してくると確信しています」と前述のステファニーニ氏は語った。

 より一般的な話として、ステファニーニ氏は、「ブランド外交戦略で成功するためには、ただ単に名前が売れているという以上のものが要求される」とも語った。

 彼は、フランスのグルメ料理が2010年にユネスコの世界遺産に登録されたことを指摘した。

「ソフトパワーは影響力を持っています。しかし、私たちが成功しているのは、ひとえに製品が良いからです」と彼は述べた。

 フランスの首都パリを訪れる旅行者も、このことを認識している。

「パリそのものがブランドであり、ブランドとして売られているんです」。シャンゼリゼ通りにあるルイ・ヴィトンの店舗前を歩きながら、米国オハイオ州からやって来た女性、メリリー・アドラー氏(28)は語った。「ここ以外の世界のどの都市も、贅沢とグルメと文化でパリに匹敵する場所はありません。パリはその強みを最大限に発揮しています」。

By THOMAS ADAMSON, Paris
Translated by Conyac

Text by AP

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