売れない平昌五輪のチケット 低い地元の関心、北朝鮮問題も不安の種

Lee Jin-man / AP Photo

【ソウル・AP通信】 平昌冬季五輪開幕まで5ヶ月と迫ったが、地元韓国の人々の意識はそれほど高まっておらず、オリンピックの事はどうにか頭の片隅にある、という程度の人が多い。

 ここ数年で最大の政治スキャンダルと北朝鮮の核およびミサイル発射実験に見舞われる中、韓国でのチケット販売は低調だ。

 五輪主催者側は、2018年2月開催予定の大会には観客数100万人以上を見込んでおり、そのうちの70%が韓国国内からの観客であると予想される。しかし、もし韓国国民がオリンピックを楽しみにしているのなら、少なくともチケット販売第一期の2月から7月までの間には、彼らはそれを十分に表に出していないことになる。主催者側は国内での販売目標数を75万枚としているが、この期間に売れたのはそのわずか7%の5万2000枚にとどまった。

 国外での販売数は比較的すべり出しが好調で、目標販売数32万枚のうち、半数以上がすでに販売済みだ。しかしここへきて、数週間で2度にわたるICBM発射実験を行ない、さらに過去最大の核実験を遂行するなど、北朝鮮が挑発的な姿勢を強めていることから、海外のファンの足が遠のいてしまうのではないか、という懸念がある。スキーリゾートの平昌は、世界で最も武装された南北境界線からわずか80キロ南に位置しているのだ。

 韓国の五輪主催者は、9月5日にオンラインチケットの販売を再開し、開会式が近づくほどに国内販売が遅ればせながら活気づくことを願っている。販売再開からの2日間で、韓国国内のチケット購入数は約1万7000枚になっている。

 AP通信社による最近のインタビューに対し、平昌オリンピック・パラリンピック大会組織委員長である李熙範(イ・ヒボム)氏は、本大会に北朝鮮の選手も出場するのであるならば、北朝鮮が五輪開催期間中に何らかの問題行動に出る可能性は低い、と述べた。しかし、出場することにまだ確証はない。北朝鮮は昔から冬季種目を苦手としており、唯一出場資格を得る可能性があるのはフィギュアスケートのペアのみだ。それゆえ、主催者らは北朝鮮選手向けに特別出場枠を設定する方法を検討中だ。

 李大会委員長は、韓国国民向けのチケット販売について楽観視しているのは、1988年のソウル五輪や3度にわたるアジア大会、そして2002年の日韓ワールドカップ開催といった国際大会の運営経験に由来するとした。

「韓国は、2012年の麗水国際博覧会で800万枚を超すチケットが売れた国だ」と話す68歳の李氏は元閣僚で、共同CEOの経験もある。「我々は確実に100万枚販売する」。

◆地元の関心薄
 韓国の主催者は、工事遅延、開催場所絡みでの地方とのいさかい、国内スポンサー誘致の遅れといった難局を乗り越えてきた。今、彼らはいかにして五輪に向けて地元を真に盛り上げ、チケット販売数を増やすのか、その方法を探らねばならない。

 1988年のソウル五輪は、これほどむずかしくはなかった。オリンピックが開催されるということは、韓国が産業国として成長し、民主主義が発芽した国として世界の舞台に登場する、ことを示したのだ。

 今や世界で11番目に豊かな国となった韓国に、大規模なスポーツイベントを主催することで世界の注目を浴びたい、という明白な公的欲求はもはや存在しない。さらにはオリンピックを主催し、大会後には使わなくなる恐れのある施設を維持することで莫大なコストがかかる、という不安もある。

 あるいは、怒涛の如き一年を過ごした韓国国民は、ただ疲れきってしまい、オリンピックに熱狂することができないのかもしれない。昨年、そして今年初め、何百万人という韓国人が汚職事件に抗議するデモを繰り広げ、結果的に大統領がその座を追い落とされ、投獄されるに至ったのだ。元大統領の裁判は今も継続中だ。

 追い打ちをかけるのが、韓国にはウィンタースポーツ文化が実はそれほど浸透していない、という事情もある、と釜山の東亜大学校でスポーツ科学を専門とするHeejoon Chung教授は語る。

「雪上のレースを観戦するために、何時間も寒い屋外にいよう、という人はそれほど多くはないと思う」。

 大会組織委員長の李氏は、意外にも、楽観的だ。韓国人の多くはぎりぎりになってからチケットを購入する傾向があり、11月にオリンピック聖火リレーが韓国に到着すれば雰囲気は改善されるだろう、と彼は言った。

 また、11月になれば、主催者が空港や駅でチケットの店頭販売を開始する。平昌五輪大会組織委員会のKim Dai-kyun広報局長は、テレビ、新聞、映画館、インターネットを通して大規模な広報活動を予定していると話した。

 資金面から見ても、大幅なチケット売り上げ拡大が重要だ。主催者側が大会運営するのに必要な資金は2兆8000億ウォン(約2800億円)だが、現段階で3000億ウォン(約300億円)が不足しているからだ。李委員長は新たなスポンサーと契約することで、その差額が埋められれば、と期待を寄せている。

 それに加え、主催者側は、いまだ空席の118万枚分の90%にあたる107万枚を販売し、174.6億ウォン(約17億4600万円)を調達するのが目標だ。チケット販売の第一期に売れた22万9000枚というのは目標枚数の約21%に相当する。この数字は少なく見えるかもしれないが、李委員長は2014年ソチ冬季五輪の同時期よりは速いペースで進んでいると話した。

 オリンピックに際して韓国の負担額は14兆ウォン(約1兆4000億円)で、この中には道路や鉄道、そして競技が行われるスタジアムなどの建設費11兆ウォン(約1兆1000億円)が含まれる。これは2011年、韓国が平昌での五輪開催を勝ち取った際に予想した費用総額(8兆から9兆ウォン)を上回る。

 平昌五輪組織委員会でチケット販売を指揮するKim Hee-soon氏は、主催者側は11月までに目標枚数の半数を販売しようと考えている、と話した。彼らは、1月末までに目標の80から90%を達成し、2月9日からの大会開催中に残りのチケットを売りたいと考えている、と述べた。

 大きな不安材料のひとつは、関心度が非常に低いアルペンスキーやクロスカントリーといった雪上スポーツで空席が目立つことが予想される点だ。

 主催者は種目ごとの具体的な販売数については明らかにしなかったものの、韓国国民が購入したチケットのほとんどがフィギュアスケートやアイスホッケー、ショートトラックおよびロングトラックのスピードスケート、そして開会式と閉会式の安価な座席に集中している、と話した。

 李氏によると、主催者側は需要が少ないチケットを今後数ヶ月間、政府機関や国有企業、あるいは学校向けに重点的に販売することで、チケット売り上げの「極化」を解消していくという。

 宿泊施設もまた、課題の一つといえる。すでに旅行客から客室料金の急騰に不満の声があがっている。これに対して当局は、年内に建設予定のホテル5店舗が完成すれば、さらに2000部屋が加わることになるため、価格が安定するのでは、と期待している。さらに政府は、数百件のアパートを賃貸提供するほか、客室数2200室のクルーズ船を近隣の束草港に停泊させ、海上ホテルとして機能させる予定だ。

 主催者らは、ソウルと平昌を1時間で結ぶ高速鉄道が12月に開業予定だと話す。これを利用すれば旅行客はソウル地区から日帰りでオリンピック観戦できるようになる。

◆北朝鮮問題
 5月に就任した韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、オリンピックを機に北朝鮮との敵対関係を緩和すると誓った。しかし、北朝鮮が核およびミサイル実験を実施する中、彼の融和政策は崩れ去った。

 IOCのトーマス・バッハ会長は8月、朝鮮半島の緊張状態について「差し迫って懸念する必要はない」と述べた。その一週間後の8月29日、北朝鮮は核弾頭を搭載できる可能性のある中距離弾道ミサイルを発射し、日本北部の上空を通過させた。そして続く9月3日には、6回目となる核実験を行ったのだ。

 平昌五輪の主催者は8月30日から31日にかけて、大勢のIOC関係者およびスポンサー代表者を韓国に招き、セキュリティ準備状況の説明と、避難所を含むオリンピック施設の査察を行った。10月には同様のツアーを国際オリンピック委員会向けに開催予定だ。

 不安を緩和するための、もっとも確実な方法は、北朝鮮が平昌五輪に参加することだと李氏は言った。

 主催者は、9月にドイツで開催されるフィギュアスケート競技会を注意深く見守ることになる。目線の先は、北朝鮮選手のリョム・テオクとキム・ジュシクのペアだ。彼らはオリンピック参加資格を争う場に、北朝鮮の最有力選手として登場する。五輪に出場するには、この競技会でベスト4に入らなければならない。

 もしもこの北朝鮮選手ペアが勝てなかった場合、韓国とIOCは北朝鮮の五輪参加を確保するため、複数種目に特別出場枠を認めるなど、別の方法について議論する予定だという。しかし、李委員長は、南北統一チームの編成や、韓国でも一部で提案されたような、北朝鮮に施設貸出しを依頼する、といったことは非現実的だ、と話した。

By KIM TONG-HYUNG
Translated by isshi via Conyac

Text by AP