「アジア人は表情が乏しい」から代わりに白人を使う、と言うハリウッド

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 ハリウッド映画にアジア人を使わないのは、「表情が乏しいから」というあるキャスティングディレクター(配役担当責任者)の発言が、ツイッター上で大反発を呼んでいる。このところハリウッドの「ホワイトウォッシング(白人以外の役に白人を起用すること)」が話題となっているだけに、理不尽な偏見と差別に批判が集まっている。

◆白人による、白人のためのハリウッド?
 問題となったのは、社会学者のナンシー・ワン・ユエン氏が自著の中で紹介した、匿名のキャスティングディレクターの「アジア人を配役するというのは難題だ。ほとんどのキャスティングディレクターは、彼らにあまり表情がないと感じているから」という言葉だ。ハリウッドにおけるアジア人冷遇をテーマにしたウェブ誌『Paste』の記事に引用されたことから、これを読んだツイッターユーザーの女性が#ExpressiveAsians(表情豊かなアジア人)をスタートし、続々とアジア系の人々の表情豊かな写真とツイートが集まっている。CNNによれば、開始後2日で、この女性のツイートにはいいね6万、リツイート2万4000が付いたということだ。

 ユエン氏は、ハリウッドの製作側の人々はほとんどが白人であり、結果として有色人種に回ってくる役が少なくなっていると主張する。同氏の研究によれば、募集される役柄の77%は白人と明記されているらしい。前出のキャスティングディレクターは、アジア人は感情表現が下手なため、コンピュータの前に座っている役や科学者役ならできるが、実際に演技をするとなれば、使うのは難しいとさえ語ったという。彼の発言にはユエン氏も途方に暮れたと述べており、さまざまな関係者へのインタビューを経て、白人メインの業界は白人俳優の利益向上のためにある、という悲しい現実がよく分かったとしている(Paste)。

◆見た目や名前を重視。アジア系は不利
 ガーディアン紙は、ハリウッドのホワイトウォッシングの傾向は、近年のキャスティングにも表れていると指摘する。日本のアニメ「攻殻機動隊」が映画化され、日本人少佐役に起用されたのは白人のスカーレット・ヨハンソンであったし、「ドクターストレンジ」のチベット人、エンシェント・ワンに選ばれたのも、白人のティルダ・スウィントンだった。

 この状況を危惧し、映画「ヘルボーイ」の日系アメリカ人役に決まっていたイギリス人俳優、エド・スクラインは、「この役はアジア人かアジア系アメリカ人俳優がやるべき」として、出演を辞退した。スクラインの決断は多くの人々から称賛を浴びている(ガーディアン紙)。

 それとは対照的に批判の対象となったのは、中国系アメリカ人女優のクロエ・ベネットだ。中国人の父、アメリカ人の母を持つベネットの本名はクロエ・ワンで、名字を変えたのは、ハリウッドで仕事を得るためだったと全米ラジオネットワークのNPRに語っている。「白人でもないが、アジア人らしくもない」ため、「主役もできないし、主役の親友のアジア人役にもなれない」と言われたこと、駆け出しのころ、ワンという名前を見ただけで、キャスティングディレクターからいらないと言われたことを上げ、名前を変えることはアジア系への固定観念に屈したということではないかという批判に対し、罪悪感はあるが、自分自身の人生のため、勝負しなければいけない時に来ていたと述べている。

◆希望はテレビか?アマゾン、ネットフリックスが変革を牽引
 Pasteは、白人中心の映画界とは対照的に、テレビ界には希望が見えるとしている。米俳優組合で雇用機会の平等を担当するアダム・ムーア氏は、アマゾンやネットフリックスの登場により、多様なストーリーを視聴者に届ける能力は、ここ10年で格段に向上しているということだ。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校のダーネル・ハント氏によれば、テレビ界の多様性は顕著に改善しており、その理由は製作される番組が爆発的に増えていることにあると見ている。また、アメリカの人口動態的現実を考慮し、多様化しなければ終わりだという理解がこの業界にはあるとも説明している。同氏によれば、全米の映画のチケットの半分以上は、マイノリティによって購入されているということだ(Paste)。お金の出所を考えれば、今後映画界も変わらざるを得ないだろう。

Text by 山川 真智子