癒しの音楽として注目されるヒップホップ
◆ヒップホップは自分を表現するための手段
1970年代のサウスブロンクスのギャング文化と暴力、そして、日常的な貧困、人種差別、人種排斥、犯罪、暴力、軽視への反動として誕生したヒップホップ。それがレジリエンス、理解、コミュニティ、社会正義を体現し尊重するのは必然だ。
しかし、ヒップホップの課題はこのような困難な状況をいまだに解決していない。依然として、世界中の多くのコミュニティが差別、分離、不当な扱いと戦っている。ヒップホップはしばしば、このような生きた体験に対する影響力のある発言として用いられる。クリエイティブな黒人やラテン系の若者が自分たちの生活や身の周り、そして、自分たちが身を置くより広い社会環境の現実を反映したアートを作ることができたのも、ヒップホップが本来持つ根本的な力によるものだ。「自分を表現する(Express Yourself)」ために基本的人権を最大限に活用していると、アメリカのヒップホップグループN.W.A.はかつて語った。
ヒップホップの誕生から40年が経った今でも、多くの若者が同じことをしなければならないのが現状だ。
ヒップホップは万能薬でも治療法でもない。完璧ではないが、ヒップホップが持つ可能性は否定できない。ヒップホップは、複雑な社会的かつ歴史的ルーツを持つ文化だ。その事実を認め、敬意を払って取り組むのでなければ、ヒップホップを使うべきではない。このルーツがあるからこそ、ヒップホップはこれほどまでに重要なのだから。その複雑な歴史ゆえに、私たちはこの社会を批判的に省みることができ、否応なしに人種、基本的人権、社会階級、文化の盗用といった問題に正面から向き合うことになるのだ。
平等、正義、寛容、批判的な市民参加が現代社会において急務であることを踏まえ、私たちはヒップホップ文化に対する偏見を疑わなければならない。おそらくそれは、いま私たちが生きる世界で最も重要で寛容なムーブメントのひとつだ。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Naoko Nozawa