ヘルシーな食生活を送るには、本当にお金がかかるのか?
著:Kelly L. Haws(ヴァンダービルト大学 Associate Professor of Marketing)、Kevin L. Sample(ジョージア大学 Ph.D. Candidate in Marketing)、Rebecca Walker Reczek(オハイオ州立大学 Associate Professor of Marketing)
行きつけの食料品店で、市場に出回っている最新かつ最高の製品が何百個も次々と送り込まれている場面を想像してごらん。 お気に入りのパスタの箱を棚から取るときに、普段購入するパスタソースのオーガニック版があることに気づくだろう。 驚くべきことに、それには普段購入しているソースと比べるとほぼ1.5倍の値段がついている。
ここで再びあなたは考える。「ヘルシーな」ものを買うために財布を空にしなければならない。
これが、食生活と価格の関係についてどう考えているかの説明だとすれば、そう思っているのはあなただけではない。 この考えはあまりにも広く普及しているため、予算内でヘルシーな食生活を送るためのヒントはどこにでもあり、ほとんどの消費者はこれが本当に困難なことだと考えている。 アメリカのオーガニック食品専門スーパーマーケット「ホールフーズ(Whole Foods)」は、「ホールペイチェック(訳:給料の全部)」とあだ名をつけられるほどだ。また、不健康なファストフードの価格が信じられないほど安いことに気づいた人は多いだろう。
食品のヘルシーさと価格の関係を測定することは、カロリーあたりの価格から平均的な一人前あたりの価格まで、様々な方法で評価できるため、実は困難である。
では「ヘルシー=高価」という考えはどれくらい普及しており、なぜ消費者はこのように考えるのだろうか?
最近ジャーナル・オブ・コンシューマー・リサーチ(Journal of Consumer Research) に掲載された一連の調査で、消費者はヘルシーフードが普通の食べ物より高価であると考える傾向があることがわかった。 これは実際には一部の製品カテゴリーでのみ成立するが、多くの消費者は証拠に関係なく、この関係がすべてのカテゴリーにわたって成立していると考えている傾向にあることがわかった。
◆消費者と素人理論
消費者は、ヘルシーフードがより高価であるという素人理論、あるいは直感を持っているようだ。
食品砂漠(コンビニやファストフード店は多数あるが、生鮮食料品を安く買える店が遠いか、ほとんどない地域)の低所得地域では、栄養価の高い食品へのアクセスが限られているため、ヘルシーフードは実際にはそれ以外の食品よりも高価であることが示唆されている。
市場とメディアにより、米国の消費者の大半が、特別なヘルシーフードはプレミアム価格であるよう期待するようになったようだ。 これはいくつかの場合に当てはまるが(例えばUSDAはたくさんのオーガニック食品にプレミアム価格がついていることに気づいている)、価格とヘルシーさとの間の一般的に正の関係が存在しない場合もある。
心理学における素人理論とは、世界がどのように機能しているかについてのノンエキスパート(非熟練者)の信念を意味する。 我々は、セルフコントロールから知性に至るまであらゆるものがどのように機能しているかについて、素人理論を持つことができる。 そして、これらの素人理論は我々の行動に影響を与える。
消費者はまた、食べ物に関する素人理論を持っている。例えば、客観的に真実であるかどうかに関わらず、不健康な食べ物のほうがおいしいと信じている。
我々は自分たちの調査において、消費者が食べ物について持っている新たな素人理論、すなわち、ヘルシーフードがより高価であるという理論を分析する。 言い換えれば、ヘルシーフードと価格の間に真の関係があるかどうかを調べる他の調査とは異なり、我々はこの信念が(客観的に真実であるかどうかにかかわらず)どのように食品の選択に影響を与えるかを理解することに興味を持った。 我々は5つの調査を行い、価格と健康との間に関係がない食品カテゴリーにおいてさえも、ヘルシー=高価という考えを直観的に持つことが、消費者がどのように食物を決定するかに影響することを示した。
◆食品価格はヘルシーさとどのように結びつくか
消費者の心の中で何が起こっているのかをより深く理解するために、我々は次のことを知りたいと考えた。 価格が高くなるにつれて、消費者はその食品がヘルシーだと思うだろうか?あるいは、ある食品がヘルシーだと謳われれば、消費者は価格が高くなると信じるだろうか?
我々の調査では、直感は両方向で働くように見えた。 つまり、1つ目の調査において、消費者に価格情報のみが提示されたとき、消費者は朝食ビュッフェについて、値段が高い=ヘルシーで、値段が安い=ヘルシーではない、という認識を示した。 同様に、CalorieCount.comを含む様々なウェブサイトが提供する要約分析の一種である「A-」の栄養グレードをある朝食ビュッフェに与えた場合、消費者はその朝食ビュッフェが、おなじ朝食ビュッフェに「C」の格付けを与えた場合よりも値段が高いと予想した。
2つ目の調査では、消費者に2つの同じようなチキンラップのよりヘルシーなものを選ばせた。 「ローストチキンラップ」が8.95ドルで「チキンバルサミコラップ」が6.95ドルだった場合、彼らはバルサミコよりもローストを選んだ。 しかし、価格を入れ替えると、バルサミコを選んだ。 つまり、人々は高い方がヘルシーだと信じていたので、高い方を積極的に選んだのだ。
3つ目の調査では、ヘルシー=高価という直感に反する食品、すなわちヘルシーだがその食品カテゴリーの平均価格よりも安価な値段で提供される食品を購入する前に、消費者はより多くの裏付け証拠を求めた。具体的には、参加者にプロテインバーの平均価格が1本あたり2ドルであることを伝えた後、0.99ドルのプロテインバーを見せた。 すると彼らは平均して3つ以上のオンラインレビューを見た。これは、4ドルのプロテインバーを見せたときには2つのオンラインレビューを見ただけだったのにだ。
栄養機能表示に対して価格があまりにも安すぎるように思えたとき、より説得力が必要なのだ。
◆ヘルシーとは何か?
しかし、ヘルシー=高価ということへの直観を信じることの影響は、単なる価格と健康に関する一般的な推論の域を超えている。
4つ目の調査では、消費者はこの直感を使って、食品中の親しみのない特定成分の重要性を評価していることがわかった。 私たちは参加者に、視力喪失につながる年齢関連の眼疾患である黄斑変性症を逆行させるのに役立つDHA(ドコサヘキサエン酸)のトレイルミックス(山歩き用携帯食品)への含有の重要性を評価するように依頼した。DHAトレイルミックスをプレミアム価格で販売していた場合、参加者はDHAと根底にあるヘルシーさの両方に高い価値を付けた。 平均的な価格で販売していた場合は、参加者は、DHAを含んだ食事をとるべき、あるいは黄斑変性症を予防することがそれほど重要であると説得されなかった。
興味深いことに、これらの推論を引き起こしたのは、DHAに対しての親しみのなさだった。 ビタミンAが同じ栄養機能表示と関連していたときは、相対プレミアム価格によってビタミンAが成分としてどれくらい重要であるかに対する認識が変わることはなかった。 この調査は、親しみのない栄養機能表示を評価するときに(食品製造者が、新しい食品を、最新のヘルシー成分を含んでいると主張して頻繁に紹介するようなときに直面するようなシチュエーションで)、人々がより素人理論に依存するということを示唆している。
◆直感は無視せよ
我々の調査はすべて、消費者がよりヘルシーな食品と高い価格を結びつける傾向が高いことを明らかにしている。
予算に制限がなく、ヘルシーな食事を作って出そうとしている場合は、おそらくこのことは問題ではない。 しかし、予算を管理しながら家族の食事をヘルシーにしようと思っている人は、栄養のためにお金をかけすぎるかもしれない。 これは、価格設定と栄養情報の両方の入手が容易であるにもかかわらず起こりうる。
消費者にとってのマイナス点は何か? 我々はみな価格と品質が完全に相関しているわけではないことはわかっているが、だからといって他の情報がない場合でも価格で品質を判断することをやめはしない。
だからもしあなたが本当にお金をかけすぎずにヘルシー食品を選ぼうとしているならば、次に高い値段がついているヘルシー食品を見たときには、自分の直感に頼るのではなく立ち止まって考えてみるとよい。直観の影響を克服するための解決策は、購入前により多くの情報を探すことなのだ。
店で買い物をしているときにも、消費者が携帯なので簡単に詳細情報を入手することで、栄養機能表示に関する主張について、より慎重かつ体系的な考え方に頼ることができる。 そうすれば直感のおもむくままヘルシーさを求めて財布を空にすることもなくなるだろう。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by yoppo