死者を感じることは完全に普通なことで、多くの場合有益だ

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著:Simon McCarthy-Jonesダブリン大学トリニティ・カレッジ Associate Professor in Clinical Psychology and Neuropsychology)

セリーヌ・ディオンは、2016年1月にがんのためなくなった彼女の夫の存在をまだ感じると最近公表した。さらには、未だに彼女は22年間連れ添ったレネ・アンジェリル氏に話しかけることがあり、彼が話すのが時折聞こえるというのだ。

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セリーヌ・ディオン JStone / Shutterstock.com

 

彼女の発言は時として嘲笑の的になるが、死去した愛する人のことを、見たり、聞いたり、感じたりすることは全く持って恥じらうことではない。反対に、これは深い悲しみを乗り越えるためにとても普通で、多くの場合有益な方法だ。

死別した配偶者の存在を感じることは驚くほどありふれたことだ。高齢の未亡人のうち30~60%は死別幻覚を体験するという。今は亡き神経学者のオリバー・サックス氏は著作の”Hallucinations”の中で次のような例を挙げている。これは、夫のポールさんを亡くしたマリオンさんが仕事から帰った時だった。

“通常その時間はポールさんは電子チェス盤の前に座っているのだった…彼のチェス盤は視界の外にあった…だが、彼はいつものように「やあ!帰ってきたのか!おかえり!」といったのだった。彼の声は明瞭で強くて本物のようだった…その発言は生き生きとしていてリアルだった。”

これは特異なことではない。ウェールズの未亡人を対象に行われた研究によると13%の人が亡くなった愛する人の声を聞き、14%は見たことがあり、3%が触れた感覚があったという。特に大きな割合を占める39%の人は先だった人の存在を感じ続けたという。

このような経験は愛する人に話しかけることに繋がり、実際に研究によると12%の人がそうしたという。この行為は死んだ配偶者が自分のことを聞いているという感覚も伴っている。

興味深いことに、死んだ配偶者と話す人のほうがやもめ暮らしにうまく付き合っているということが明らかになっている。

死者はパートナーや配偶者である必要はない。様々な年代の人々の死別幻覚の研究から、祖母を亡くしたサミュエルさんの例を紹介しよう。ある日、ディスポーザーの不調の原因はどこにあるか探っていた彼は、祖母が「裏よ、裏をみて」というのを聞いた。そしてそれは正しかった。

◆死者への感謝
複数の研究によると3分の2以上の未亡人が死者幻覚を快く、ありがたいものとして捉えている。こういった幻覚は精神的、感情的な強さや安静孤独感の低下や、難しい問題に直面しているときの励みになりうるというのだ。

死別幻影の研究のために話されたアギーさんの経験を見てみよう。アギーさんの彼氏は自身もうすぐ死ぬことを隠し、彼女が辛くないようにあらかじめ関係性を絶った。彼が死んでから、アギーさんは彼が最期に彼女に別れを告げたことを謝罪するのを聞いた。彼女は彼の死について部分的に自分を責め、やましく感じていたが、この声を聞いたことで自分を許すことができた。

このような経験は多くの場合時とともに少なくなっていく

◆悪い一面も
もちろん、死別幻覚には問題点もある。例えば、初めて死別幻覚を見たときに、亡くなった人が本当に帰ってきたわけではないのだと気づき、とても落胆するケースがある。幻覚は精神的な苦痛を与えることがある。ヘロイン過服用で娘を失った母は「お母さん、お母さん、寒いよ」と娘が叫ぶのを聞いたという。未亡人に関しては新たな人間関係を始めることを阻むこともある。

さらには、死者がいい人になって表れるとは限らない。ジュリーさんは、彼女の母親が亡くなった後、彼女の声を聞き始めた。それは彼女を淫らで下品な女だと罵倒するようなものだった。さらにその声は、彼女は生きるに値せず、薬を過剰摂取して死ぬよう勧めた。ジュリーさんと母親との間には問題を抱えていたが、彼女は生前そんなことを言うことはなかったという。

ありがたいことに、このような悪い経験は珍しい。ある研究は6%の人しか死別幻覚を不愉快に感じた人はいなかったという。このような経験はほとんどの場合、精神的治療を必要としない。実に、人々がこの幻影を快く思ったのならもう一度起こってほしいと典型的には思うものなのだ。

◆どうして幻覚を見るのか
多くの学者は、通常の認知は脳が外界の情報の予測を作り出すことから始まるといわれている。この予測はその後、外界からのフィードバックを通じて修正され、知覚を作り出す。知覚とは編集された幻覚なのである。

よって、幻覚を理解するための一つの方法はそれを修正されなかった予測ととらえることである。(私の最近の本がこれをより詳細に説明している)もし、誰かが自分の人生と調和した、貴重な存在だった場合、脳がその存在を認知することに慣れすぎているがために、実世界を覆すような認知を続けるのである。

新しい生活が始まったのだが、脳はまだ昨日に執着しているのである。

◆非難してはいけない
どうして私たちはこのような経験を耳にしないのだろうか?最も明らかな理由は、幻覚を見ることが非難の対象になるからだ。イギリスやアメリカ合衆国では、一般に幻覚は気が狂っている兆候だと教えられている。

よって、イギリスの研究で28%の人しか幻覚をみたことをほかの人に明かしたことがない、というのは決して驚くべきことではないかもしれない。一人も医師にそれを話したことはないという。多くの人は何故自分がほかの人に打ち明けないかについて挙げなかったものの、理由を挙げた人の多くは嘲笑される恐れを挙げている。

この問題は必ずしも全ての国にあるわけではない。例えば、日本の未亡人の90%は、先だった配偶者の存在を感じたことがあるが、誰も自分が正気であるか疑ったことはないという。先祖を崇拝することが日本人が喪に服すことに役立っているのだろう。

これら全てを踏まえると、我々はこのような体験を非難することを考え直す必要がある。未亡人に関するある研究によると死別幻覚は幸福な結婚生活の後にしか起こらない、つまり単純に我々は愛の力の強さに感激するべきではないのだろうか。

セリーヌ・ディオンよ、これを世に広めてくれ。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by AnthonyTG

The Conversation

Text by The Conversation