IQテストの価値を認めないのは愚かなこと?
著:Stuart Ritchie(エジンバラ大学 Postdoctoral Fellow in Cognitive Ageing)
「IQテストは、単にテストでうまく回答できるかを測定するための手段」。知能テストの話になると、このような議論がよく交わされる。これは、科学的にきわめて脳力の高い人によって喧伝されたりする。気候変動は神話だ、とか、ワクチンを接種すると自閉症になるなどと彼らがいうことはまずないだろう。しかしIQテストが無意味だという発言は、それと同じくらい間違っている。実際、この数十年の間に丁寧に繰り返し行われてきた研究によると、IQテストは、あらゆる心理科学の中で最も信頼でき、かつ有効な手段だとされている。
それでは、実のところ、形状パズルや無意味なシンボルのリストをいかに早く確認できるかの計測、記憶テスト、語彙測定などに代表されるIQテストによって、その人の何が分かるのだろうか?最も高い相関関係を示したものは、特段驚くほどのものではない。IQスコアは、その人の学業成績を高い確度で予想する。ある大がかりな研究によると、11歳の時に獲得したIQスコアと16歳時の学業成績との相関係数は+0.8であった(同係数は−1から+1の値をとる)。そのため、このテストは確かに「知能テスト」と呼べるだけの理由がある。しかしそれはまだ序の口にすぎない。高いIQスコアは、仕事での成功、高い収入、身体的・精神的な健康をも予想する。そしておそらく最も注目を集める知見は、子ども時分のIQスコアがその人の死亡率を予想するというものだ。賢い人ほど長生きする。この結果は、社会的な階級の影響を取り除いてもなお有効である。
神経科学者や遺伝学者もまた、人知の理解で相当の進歩をもたらしてきた。何百もの研究を対象にしたメタ分析の結果、脳の大きい人はIQテストの成績が良い傾向があることが確証され、脳の特定部位や機能に関する研究はまだ継続している。双子を対象とする調査やDNAを直接観察した調査の結果、知能テストの成績は遺伝することも判明している。個人間で異なる知能レベルの違いの大半は、遺伝で説明できるのだ。この違いをもたらす特定の遺伝子のいくつかはすでに解明が始められており、さらなる知見がまもなく明らかにされるだろう。
知能が遺伝や神経の機能と関わっている、そして知能は人生を通してかなり安定していそうだという理由で、知能を変えることはできないと考えるのは間違いである。このように考える人たちは、IQスコアは不変で、平均点以下なら人生は惨めになると決めつけている。それは誤りだ。個人のIQスコアを上げられないというなどという法則などない。少なくともある程度までは上げられる(最近の試みは失敗に終わっているが)。実際、やや曖昧ではあるが(非遺伝的な理由で)フリン効果と呼ばれるプロセスによりIQスコアはここ数年、着実に向上している。そしてもう1つの誤りは、IQスコアがその人物の「全体を表している」という主張を信じることだ。これもまた別の意味で間違っている。すべてのIQ研究者たちは、性格、動機、運を含む他の要因などが人生の成功に欠かせないという考え方をたやすく受け入れる。
IQテストに隠しておきたい秘密がないというのはばかげている。全てとはいわないが、このテストを発明した人の多くは20世期初頭、優生学運動に関わっており、IQテストの元々の使われ方に失望するのも理解できる。しかしこうした懸念は、今日受験したIQテストの得点がその人のことを何でも言い表せるのかという中心的な問題とは無関係である。ファクトはファクト。そして、知能テストの得点の有効性は、多くの論拠により幅広く支持されている。
リンクを貼った上記全ての研究が示しているように、IQテストは、教育から医療、仕事の世界に至るまで、あらゆる状況で活用できる。私たちは、脳の老化現象を理解し、より健康的に歳をとるのに役立たせるためにIQテストを必要としている。人の知性を高める方法に取り組み、その結果として生産性の向上に役立たせるためにもIQテストを必要としている。そしておそらく、IQテストは、心理科学者が人知を精査・検証するのに使用するツールの1つである。つまり、このテストが提供してくれる知見を無視し続けるのは、きわめて賢明でないといえよう。
This article was originally published on AEON. Read the original article.
Translated by Conyac