世界の食糧システムを改善する簡単な方法
著:Peter A Coclanis(ノースカロライナ大学チャペルヒル校 Albert Ray Newsome Distinguished Professor of the History Department, Director of the Global Research Institute)
国連(UN)ミレニアム開発目標(MDG)のデータからも明らかなように、ここ数十年の飢餓と栄養不良に対する国際社会の歩みは目覚ましい。たとえば1990年から2014年までの世界の栄養不良率は23パーセントから13パーセントまで下がり、実に著しい進展だ。それでも、世界には依然として8億の栄養不良に苦しむ人々がいて、その大半はサハラ・アフリカ、南アジア他の地域の民族だ。
明らかに、世界の栄養不良人口を確実に減らしていくことは開発優先事項だ。「ゼロ・ハンガー」は国連開発計画の(2015年にMDGの跡を継いだ)17の「持続可能な開発目標」の第二の優先目標となっている。しかし、この目標の達成はおろか、近づくことさえ容易ではない。私がこの記事を書いている2017年初頭現在、世界の人口は約75億だ。現在の予測では、2050年までに人口は約97億に増加し、食糧確保が最も困難な地域で最も急速に人口が増加するとみられている。
この人口推計は、食糧安全の課題に関心のある学者や専門家にとって非常に厄介だ。平たく言えば、気候変動という状況下でますます低下する運用基盤を用いなければならないこと(質がひどく低下している農業用水が減り、農地が荒れ、新鮮な魚が減少するなど)と殺虫剤や肥料の使用を減らしていかなければならないことがほぼ確実な時に、それだけの人口に食糧を供給する方法を一体どのようにして見つければよいのか。
そればかりではない。現在より20億も多くの人々に食糧を提供しなければならないだけでなく、世界人口の収入と生活水準がますます上がるにつれ、資源をより必要とする高タンパク質や乳製品ベースの食事が求められることはほぼ間違いない。これは大変な仕事なのだ。
以上の点を考えると、飢餓からの解放はともかく、すべての人に食糧を確実に供給するための唯一の解決策や秘密の特効案というものは存在しない。幸いにも、問題を一歩前に進めるには様々な方法がある。たとえば、肉の消費を減らすことによって、または一人当たりのカロリー摂取を減らすパーソナライズされた、あるいは的を絞った栄養を用いるメタボロミクス(代謝学)を発展させることによって、人の食事内容を環境への影響が減るように変えることができるかもしれない。さらには、従来の農業 よりも少ない資源を用いて食糧全体の供給に寄与することが可能な合成生物学に基づく「工場食品」を検討することができるかもしれない。
もちろん、農地、労働力への資金投入、農業資本の増加、または、精密農業、細流かんがい、農業分析、飼育慣行(従来のやり方か遺伝子組み換え、遺伝子編集かを問わず)の改善を通じた生産性向上によって、農業生産量を増やすことも全体像の一部だろう。確かに、農家、研究者、農業推進代理店、為政者などの協働によって、1950年代から世界の農業生産量は驚くべき増加をしてきた。しかしここ数十年、実質成長率は様々な理由により減速している。おそらくその最も厄介な理由として挙げられるのは農業の生産効率の伸び率の鈍化だろう。
幸い、生産効率の伸びに関わりなく、効率的な食糧供給を増やす複数の方法がある。これは容易に解決できる問題であり、その解決策は一般的に「食料廃棄」の伝統の下に組み込まれてきた場に見出すことができるのだ。廃棄物は広範なカテゴリーであり、収穫後に畑や果樹園に食用に適する生産品が残る問題、収穫と農業製品(または魚介類製品)販売の間で発生する収穫後ロス(PHL)、食用に適しているが見栄えの悪い果物や野菜が売れ残る問題、食品がレストランや家庭で捨てられるといったロスなどの問題が当てはまる。
国連食糧農業機関(FAO)によれば、世界で人間の消費のために生産された食糧の約3分の1(約13億トン)は損失か廃棄されている。カテゴリー別に分類すると、世界の穀物生産の30%、乳製品の20%、「収穫された」魚介類の35%、食肉の20%、油糧種子と豆類の20%、根菜類、また野菜や果物の実の45%が無駄になり廃棄されているとFAOは見積もっている。
先進国で暮らしている人々にとっては、売れ残って廃棄される食品など、小売店と消費者に関連する廃棄問題は身近なところにある。しかし、世界の多くの地域で最重要課題であるこの問題には別の一面がある。それは、(先進国にとっても大きな問題である)PHL(収穫後ロス)だ。名前が示唆する通り、PHLは一般的に、食糧の収穫から市販までの間に回避することが可能な食品の無駄を指す。ただし、人によっては、このカテゴリーを消費の時点まで広げる場合もある。どちらのケースも、収穫それ自体から後続の処理に、不適当、不適切な処理、脱穀、乾燥、洗浄、処理、間違った保存、輸送、穀物や収穫した魚の包装などが原因で様々な無駄が生じている。総合的に考えると、これらの要因は、生産地や地理的位置によって5~10%から50%以上もの食品ロスに結びついている。一般的にこのようなロスは穀物よりも(果物、一部の野菜、魚などの)生鮮食品や(一部の野菜、根菜類、油糧種子や豆類などの)半生鮮食品に多い。ただし、一般的には腐りにくい穀物のロスも、往々にして昆虫や齧歯動物による被害、保管の悪さ、輸送基盤などが原因で高い場合がある。
現在、我々の食糧の3分の1が無駄になり廃棄されていることを知るのは非常に残念だが、詳細に調査していくと、大きな希望の光が見える。穀物生産量増加の場合とは異なり、既存技術の普及と活用により食品ロスと廃棄を改善する余地が大いにあるのだ。民間・公共部門やNGOによる技術革新の取り組みのおかげで、世界中で現代的な農業ビジネスやコールドチェーン機器、慣行、プロトコルが利用されるようになっている。さらに、多くの「先端」技術も「適切な技術」に則って刷新されており、実際に一連のPHLの全段階における食品ロスを削減するために効率的に利用されている。発展途上国向けの温度・湿度管理(監視)が可能な倉庫やサイロの新たな設置はその1つの好例だ。その多くは、太陽光、風力など低炭素、無炭素エネルギーシステムによる動力によって運営されている。このような保管施設を正しく用いれば、先進国に近いレベルで食品ロスを削減することができ、食糧の入手可能性発展に大いに役立つ。
PHLの削減は生産量増加と同じ結果の実現につながる。そして多くの場合、それは生産量増加よりも易しい。拙稿がFood for thought(思考の糧)となれば幸いである。
This article was originally published on AEON. Read the original article.
Translated by サンチェスユミエ