ポジティブな記事が自然保護への意識を高める?
著:Diogo Veríssimo(ジョージア州立大学 David H. Smith Conservation Research Fellow)
近頃、自然がニュースに取り上げられることがあまりない。取り上げられることがあっても、その記事は決まって絶滅の危機にある野生生物、記録的な気候極値、荒れ果てた景観などを中心に展開する。けれどもそんな話ばかりではない。よいニュースもあるのだが、あまり注目されないことが多いのだ。
人々が先行きの暗い地球の状態にどれほど圧倒され、絶望しているかは一目瞭然だ。どうせ世の中はこの先悪くなるばかりなのに、何かをする意味はあるのか?
複数の研究は、ネガティブなメッセージが環境課題にマッチする公共支援、政治支援を得る最も有効な方法ではないことを示している。私は環境保全科学者、ソーシャルマーケターとして、環境保全に関心を引くためには環境課題に大きな重点をおかずに議論を行う必要があると考える。代わりに、環境保全に対する取り組みが種や生態系、またそれらと共生している人間に役立っている事例が増えていることに焦点を置くべきだ。
◆ポジティブなメッセージの力
この問題は目新しいものではない。様々な分野の専門家は自らのメッセージが最大の効果をもたらすような言い回しを検討しなければならない。たとえば、衛生行政機関は無病であることのメリットを強調したポジティブな助言または病気の影響としてのマイナスのメッセージを作成することができる。しかし2008年に行われた60のヘルスコミュニケーション研究のメタ解析は、損失に焦点を当てたメッセージはポジティブなメッセージと比べて効果が薄い傾向があると結論づけている。
また別の研究は、所得補助金受給者に所得報告をするよう説得するために作成された広告について調査した。そして恐怖、羞恥心、罪悪感に重点を置いたメッセージは感情的に反発を生じさせ、調査対象者は行動を恥じなくてもよいように自分を正当化したという結論が出ている。このアプローチは感情的な飽和状態も引き起こし、メッセージのもつネガティブな性質が対象者に「メッセージに対する興味をなくさせて」しまった
環境活動家もこの課題に直面している。大半の議論は気候変動の問題に重点が置かれているが、多くの学者や環境活動家は、悲観的な暗いメッセージには効果はなかったと断言している。にもかかわらず、ごく最近まで自然保全の議論をどう工夫するかに関して、このような問いかけがされてこなかったのである。
◆絶滅後再発見された種
今日、ますます多くの学者や活動家が野生生物とその生息環境保護に関するポジティブなビジョンの作成に取り組んでいる。その主要な取り組みとして、2014年、Ocean Optimismと呼ばれる海洋保護運動がスタートした。これは希望のもてるストーリーの作成に取り組むことにより、「海洋の持続可能な未来」に向けた運動を後押しするものだ。
2017年4月、スミソニアン協会の主催でEarth Optimism Summit(地球オプティミズムサミット)が開催され、環境問題研究家、科学者、業界人、報道関係者が一堂に会して世界的な環境保全運動の焦点を課題から解決にシフトするための討議が行われた。ワシントンで始まった1つのイベントはまもなく真に世界的な運動となり、コロンビア、ニュージーランド、香港などで30もの姉妹イベントが開催された。
再発見された種の一つ、フクロモモンガダマシ
Brendan Howard/shutterstock.com
このような取り組みはできる限り多くの人々に環境保全に関する明るい情報を伝える様々なイニシアチブを推し進めてきた。その1つとして、私が共同設立し、国際保全生物学会とイギリス生態学会が主催しているLost & Foundプロジェクトというプロジェクトがある。インターネット上でストーリーを語るこのイニシアチブは、一度は絶滅したと思われていた種を再発見したというよいニュースをどんどん書いてもらうことに特に重点を置いている。なんといっても、完全に絶滅したと考えられていた唯一無二の種が再発見されるほど元気づけられることはない。
毎年、絶滅したと思われていた数多くの種が再発見されている。これらの種は平均して60年ほど行方不明となったのちに再発見される。過去1世紀にわたり300種以上もの生物が再発見され、その大部分の生息域は熱帯地方だ。再発見された種の大半の生息域は限られており個体数も少なく絶滅の恐れが高いとされている。
プロジェクトの目標は、よいニュースを伝えることばかりでなく、再発見という困難な取り組みを率先し、深く思いを寄せる種の歴史を書き直そうとする人々の献身と決意を初回することだ。誰もがレッド・クレステッド・ツリー・ラットやキエボシニワシドリには関心がなくても、人には興味があるだろう。
Lost & Foundはテキスト、漫画、そしてまもなく始まるアニメを含め様々なフォーマットで視聴可能なコンテンツを製作しており、自然関連の記事をあまり読まない人にも利用しやすくなっている。現在、リスやカエル、コウモリや鳥などの様々な種を取り上げたストーリーを13本公開している。(編注:この記事の原文は2017年5月8日に公開されました。)記事は中南米からオセアニア、北米、東南アジアにわたる広い範囲をカバーしている。
反応は非常に前向きだ。サイト開設後最初の10日間で世界50ヶ国の1000名以上の人がサイトを訪問した。人気記事に出てくるバルマーのオオコウモリやケイブスプレイフット・サラマンダーなどは普段は特にカリスマ性があるとは考えられていない動物だ。
このような感動的な再発見をできるだけ多くの人に読んでもらうことが地球の未来に対し建設的なビジョンを構築する第一歩だ。これは時代を超えた語りの原理を実践するにはうってつけの場所のようだ。つまるところ、誰もがハッピーエンドを望んでいるのだから。
This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by サンチェスユミエ
Eye-catch photo Alisha Newton/shutterstock.com
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