サッチャー元英首相死去 追悼社説にみる、各紙の国家観の違い

サッチャー元英首相死去 追悼社説にみる、各紙の国家観の違い マーガレット・サッチャー氏が8日、87歳で死去した。サッチャー氏は、イギリス史上初の女性首相(1979~1990年)。「鉄の女」と呼ばれ、国内の政治・経済改革、フォークランド紛争、冷戦終結などに大きな足跡を残した。
 日本各紙(朝日・読売・産経)は、追悼と功績に対する評価について、それぞれの切り口から論じている。

 まず各紙に共通して挙げる功績は、経済停滞・財政悪化という「英国病」の克服だ。国有企業の民営化、金融「ビッグバン」などの規制緩和、福祉の抑制など、「小さな政府」路線を進め、経済活性化に成功した点が強調されている。
 読売新聞は、これはイギリスだけでなく、米国の「レーガノミクス」との連携で、世界経済の停滞を打破したと絶賛する。同紙は、国鉄民営化など、その後の日本の改革にもつながったと評価している。

 もう一つ、各紙が共通して取り上げているのは、フォークランド紛争の際に示された「鉄の意志」である。サッチャー氏は、アルゼンチン軍の武力侵攻に対し、国内外の慎重論を退けて派兵し、諸島を奪還した。
 読売・産経両紙はこれを、「国際法が武力行使に勝る」という信念に基づくと評している。朝日新聞は「強烈なナショナリズム」とみて、EUに対する懐疑・警戒姿勢と合わせて、世論の支持を集めたと紹介している。

 また読売・産経両紙は、サッチャー氏の強腰の構えが、西側陣営の団結と冷戦終結につながったと評している。

 そのうえで各紙は、サッチャー氏が残した課題、日本が学ぶべき点について論じている。

 朝日新聞は、サッチャー氏が先導した国家モデル(サッチャリズム)を、「小さな政府」を「ナショナリズム」で大きく見せた、と分析。これは、ひとつの国家の在り方といえる。とはいえ、金融危機など問題がグローバル化する中では、ナショナリズムは障害にもなりうると指摘し、これはサッチャー氏が残した難題だと結んだ。
 
 一方、読売・産経両紙は、直接日本が学ぶべき点を指摘する。
 まず、政治・経済改革に対するサッチャー氏の実行力と指導力。そして、国際政治において、国際法を遵守し、領土・主権を断固守る意志と行動だ。産経新聞は、イギリスの対ソ政策を、日本は対中政策として学ぶべきと主張する。すなわち日米同盟の再建と価値観外交であり、同紙は、これに学び“現路線を進めてもらいたい”と主張する。

 総じて、サッチャー氏の実績の紹介方法の違いから、各紙の国家観・課題意識の一端が伺える社説だったといえる。

Text by NewSphere 編集部