ゴミで悪臭漂う河川にデング熱 日本企業含めアパレル産業が及ぼしている環境問題
「SNS映え」という言葉の誕生やネットショッピングの発達により、私達の生活において身近であり大きな存在となったファッション。
今や月に1着は服を買う、という人も珍しくないでしょう。
激安海外通販の普及により中高生でも最先端の服を着こなす時代です。しかし、こうしたファストファッションがどこに影を落としているのか、私達の多くは知らずにいます。
アパレル産業が環境にもたらしている問題
今回、我々の目に止まったのはこちらの動画。黒く染まったバングラデシュの河川にゴミが漂い、更には凄まじい悪臭もするといいます。
この投稿者であり、取材に応じてくれたのはアパレルベンチャー企業「hap株式会社」の社長、鈴木素氏です。
鈴木氏は今まさに業界のしわ寄せを受けているバングラデシュに6年前から定期的に訪れ、デニム製品を中心に日本の大手アパレル向けに生産を行っています。
この動画に映る惨状は一体どういうことなのでしょうか。
まずは、アパレル産業が国境を越えて抱える普遍的な問題について説明しなければなりません。
国連開発貿易会議で世界第2位の汚染産業と見なされているように、アパレル業界は非常に環境負荷が高いことで知られています。
環境庁が公表している資料によると、アパレル業界による年間CO2排出量は90,000万t。
これは自動車約1万台の年間排出量と同等のものになります。
さらに、化学物質による水質汚染も深刻です。
経済産業省が2021年に発表した「これからのファッションを考える研究会〜ファッション未来研究会〜」でも、淡水水質汚染のうち20%はアパレル産業の染色工程における化学物質であり、更に海洋に出るマイクラプラスチック1300万tの6割が化学繊維衣類の洗濯時に発生すると判明しています。
流出した繊維は有害化学物質として100万倍に濃縮され、 魚の体内から人体へ流入し被害を及ぼすのです。
このように、衣服製造のサプライチェーン全体がもたらす環境負荷は甚大なもの。
それにも関わらず、衣服の大量生産、大量廃棄は留まるところを知りません。
売れ残り、廃棄される衣服は年間で9200万t。
衣服1枚あたりの製造にかかる水は2300L、排出されるCO2は25.5kgであることから、どれだけの資源が浪費されているかが分かるでしょう。
より安く、より多くの供給を目指すアパレル産業。
この悪循環を形成したのは、実は我々消費者です。
1人あたりの衣服の年間消費数として手放す服より新たに購入する服の方が3着多く、年間で1度も着用されない服は35着もあります。
こうしたファッションの短サイクル化や低価格化が大量生産、大量廃棄の元となっているのです。
アパレル産業がバングラデシュ国内に与えた影響
では、何故バングラデシュなのでしょうか。
意外と知られていない事実ですが、バングラデシュの人口は1.7億人で世界第8位の人口大国なのです。
国内での基幹産業が繊維産業であるため、世界のアパレル産業を代表している国だと言えます。
鈴木氏が投稿した動画の場所は、首都ダッカ周辺のアパレル工場エリアです。
この川の汚染は付近の工場から流れ出た汚水によるものだと考えられます。
「残念ながら安い労働賃金を求めて日本の多くの大手小売・アパレル・商社などが今なお、目先の利益を追求しています」と鈴木氏はコメントしました。
環境負荷がもたらすのは黒く濁った河川だけではありません。
バングラデシュでは今、デング熱が喫緊の問題となっています。
2018年にバングラデシュで気候変動の影響でデング熱の非常事態宣言が出されましたが、「その気候変動にアパレル業界による環境汚染も少なからず関わっている」と鈴木氏は考えています。
「ダッカの発展は凄まじく都市化が進み、欧米向けの巨大アパレル工場の社長は高級車に乗ってます。
一方、工員の給与水準は低く、さらにはデング熱に感染しても病院に行くことができない貧困層も本当に多くいます。
街の至る所で蚊の異常発生しており、7月から9月には多くの方々がデング熱で死亡してます。
更に驚くことに蚊が殺虫剤の耐性を持ち、世界中の殺虫剤が殆ど効かない状態となってます。
コロナ前には効果があった殺虫剤や忌避剤が効きません。
20年前、デング熱はバングラデシュには殆ど存在しませんでした。
コロナで主要産業のアパレル産業は欧米ブランドが一方的に大量のキャンセルをしたりするなど厳しい状況でしたが、今はデング熱が猛威をふるってます」(鈴木氏)
「アパレルの工場は現在、世界中から投資されており、最新のミシンや設備が入ってきてます。
工場の敷地の中は綺麗な環境になってきてますが、一歩出ると環境汚染が目立ちます。アパレルの光と闇が見え隠れします」
今、鈴木氏のhap株式会社はバングラデシュ現地の人々の要望を受け、デング熱対策に関する衣服開発を行っています。
ダッカ大学と2019年から共同研究としてはじまったこのプロジェクトはコロナ禍による中断があったものの、2023年より再開しました。
現在はアパレル製品の製造、機能素材の開発、デング熱対策の研究開発、現地で採用されるためのコスト感での開発などで年間4回程度訪問しているといいます。
また、hap株式会社では「カバロス」という独自の新技術により、1工程で冷感やUVカット等10個以上の多機能性を持つ環境配慮多機能素材の開発を可能にしました。
この「カバロス技術」及び「カバロスのサーキュラーファッション」は昨年、第11回技術経営イノベーション大賞で内閣総理大臣賞を受賞し、その発展に注目が集まっています。
鈴木氏はアパレル業界のイノベーターとして、日本の消費者の環境や人権、貧困などに対する無関心を指摘しています。
「国、自治体、アパレル産業、メディア、NGOやNPO、消費者が連携する必要性を感じてます」とコメントしました。
「衣服の廃棄が環境負荷に繋がると何となく知ってはいるけれど、そんなに緊急性を感じていない」という消費者がほとんどではないでしょうか。
アパレル業界による犠牲は人命に関わるものであり、消費者ひとりひとりの協力無くしては消して解決できない問題だという認識が求められます。
衣服の適度購入やリユース、リサイクルといった循環利用による廃棄の減少等、我々にできることは意外と身近にあるものです。
まずはこの週末にでも、着ていない服をフリマアプリに出してみてはいかがでしょうか。