東京諸島の中で滞在日数はダントツ 訪日外国人を惹きつける人口500人の離島・式根島
人口500人ほどの東京都の島、式根島。美しい海に囲まれた離島です。
筆者は今回、横浜港から東海汽船のさるびあ丸に9時間半乗り、式根島に到着しました。
離島ということもあり、外国人観光客はどれくらい認知されているのでしょうか。
式根島の美しい景色や、観光協会に聞いた魅力を紹介します。
式根島を散策
野伏港に近い菊水旅館に荷物を置いた後は、レンタサイクルで島を探索開始。
式根島にあるスーパー「ファミリーストアみやとら」で「島ののり弁」を購入して、海辺でランチタイムです。
のり弁には、島海苔の上に竹輪やあした葉の天ぷら、カニカマの天ぷら、アサリの佃煮などがのっていてボリュームたっぷり。とても美味しかったです。
観光協会に聞いた島のオススメは、美しいビーチと温泉。
短い滞在時間で全て周るのは難しそうだったため、地図を片手に自転車であちこち見てきました。
自転車で走っていてもほかの観光客にはあまり出会わず、ビーチや露天の温泉に行っても周りに誰もいなくてゆっくりできました。
これもシーズンオフの旅ならではの贅沢ですね。
式根島の温泉は、ほとんどが水着を着用しての混浴の露天風呂です。
夕方は島で唯一、建物になっている温泉施設「憩いの家」で温泉につかりました。
ここで出会った80代の地元の女性は、バレーボールの練習中にアキレス腱を切って手術した後、「毎日温泉に浸かったら回復が早かった」と話してくれました。
温泉でリラックスした後は菊水旅館で夕食です。
ボリューム満点な料理に、舌鼓を打ちました。
翌朝は出航前に、前日に行けなかった泊海水浴場を散策。
その美しさは圧倒的です。周りには誰もいなかったので、美しいビーチを独り占めできて感動しました。
式根島の外国人観光客対応
コロナ禍の間激減していた外国人観光客数。
日本政府観光局の統計によれば、2024年1月の訪日外国人観光客の数は、コロナ禍前の2019年1月と同じレベルまで回復しています。
離島である式根島では、外国人観光客はどのように受け入れているのでしょうか。
式根島観光協会の事務局長、田村修一さんにお話をうかがいました。
ーー式根島はどのような島ですか。
「式根島は人口約500人の島で、東京諸島と呼ばれる大島から母島までの島々の中で一番小さい島です。
一番の特徴は澄んだ海と、湯治場としての温泉です。冬は湯治客が多く、体を治したい人が集まる島です。
夏は海が澄んできれいです。
家族連れにも安心な海水浴場が4カ所あります。
その中でも泊海水浴場は2023年、『日本の海の中で一番きれいな海』のランキングで1位に選ばれました」
ーー式根島を訪れる観光客はどれくらいですか?また、その中で外国人観光客はどのくらいの割合なのでしょうか?
「コロナ前の統計では、年間平均3万人ぐらいの観光客の中で6〜7%が外国人でした。
外国人観光客は年間通して1,000人ぐらいでしたが、コロナの後は減ってしまい、現在は数百人ぐらいです。
コロナ前は外国人観光客がどんどん増えていると実感していましたので、色々な対応をしていた矢先にコロナ禍が起きてしまいました」
ーー外国人観光客は、どのようにして式根島を知ることが多いのでしょうか?
「アンケートで聞いたところ、一番多いのは口コミでした。
あとは旅行ガイドブックの「Lonely Planet」を見て来たという人も多かったです」
ーー外国人観光客は、式根島のどういったところに魅力を感じているのでしょうか?
「オフシーズンには人が少ないので、夏だと混み合うビーチがプライベートビーチになります。
ヨーロッパからの観光客が多いですが、朝から晩まで誰もいないビーチで日光浴をしながら本を読んだり、温泉に入りながらコミュニケーションをとれたりするところがいいと言う人もいました」
ーー外国人観光客の受け入れはどのようにされていますか?
「コロナ前はパンフレットやウェブサイト、冊子などを外国人向けに作っていました。
あとは、「しまっぷり」というアプリを作りました。
言語の変換ができるので外国人も船の航行状況などを確認できます。
アンケート結果では、マップや冊子を見たことがないという外国人が多く、温泉の入り方が分からない外国人がいることが分かりました。
例えばサンダルを履いたまま入ったり、(式根島の温泉は水着着用なのに)裸で入ったり、ルールが分からないまま入ってしまったりする方がいました。
そこでピクトグラムを作成して温泉に設置したところ、マナーが守られるようになったのです。
また温泉の入り方だけでなく、和式トイレの使い方も分からない方がいたので、絵で説明しました。
また、島めぐりをする外国人も多いため、新島、式根島と神津島で広域連携してspiceというパンフレットを作りました。
こうしたパンフレットやピクトグラムで、外国人観光客も困らないように対策しています」
ーー外国人観光客を受け入れる際に困ること、今後の課題は何でしょうか?
「式根島の宿が36軒ある中で外国人に対応できる宿は片手で数えられるぐらいです。
基本的にコミュニケーションが取れないと、受け入れる宿が少ないことが課題です。
外国人観光客にも方言を覚えてもらうなど、母国語ではない言葉を体験すればその方にも良い思い出になると考えています」
ーー外国人観光客に見て欲しいところや、ぜひやって欲しいアクティビティなどはありますか?
「まずはダイビング、シーカヤックなどが一般的なアクティビティですが、それらは式根島でなくてもどこでもできます。
式根島ならではで言うと、例えば東要寺というお寺では和尚さんにお願いして祈祷してもらえます。
朝の祈祷会では英語で話してくれることもあります。
まずは島の文化、伝統を体験して欲しいと思います。
あとは、温泉の中で地域の方とコミュニケーションをとって欲しいです。
朝夕は温泉が島の人たちのコミュニティースポットとなりますので、島の人たちとの触れ合いをするのもアクティビティになるのではないでしょうか。
島としてもっと英語に慣れていけば、農業体験や漁の手伝いをしてもらうことで、よりディープな、ローカルな体験をしてもらえると考えています。
式根島が好きになったアメリカ人の興味深いエピソードがあります。
そのかたは、地元の博物館で見つけた1880年頃の地図を送ってくれました。
薩長同盟の頃の地図だといい、それを見ると新島と式根島は別々に描かれています。
実は新島と式根島はつながっていたという説がありますが、古い文献で見ても新島と式根島は離れていたことが証明できるという貴重なものです。
外国の地域でも、伊豆諸島について調べられることが分かりました。
1回の旅行で何日滞在するかを調べたところ、東京諸島の中で式根島での滞在日数は3〜4日と、断トツで1位でした。
以前は1週間ぐらい滞在する外国人観光客の方もいました。
式根島は日本人も外国人も、全ての人がのんびりできる島として、ぜひ遊びに来て欲しいと思います」
式根島は、島ならではゆったりした時間の流れと豊かな自然が魅力の島です。
海や温泉が好きな人なら、式根島に一度行ってみれば必ずまた行きたくなることでしょう。
コロナもやっと落ち着いたとはいえ、円安で海外に出かけるのも難しい今、東京の島を訪れてみてはいかがでしょうか。