マクドナルドに行けなくなったアメリカ人 業界で進む客層の逆転

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 安さと安定のおいしさで人気を集めてきたマクドナルド。アメリカでも低所得層の頼みの綱だったが、価格高騰でとくに低所得層の客足が遠のいている。ビッグマックは25年で実質で約40%も値上がりし、ファストフードは「贅沢品」と受け止められつつある。

◆低所得層が去り、富裕層が来る異変
 マクドナルドのクリストファー・ケンプチンスキー最高経営責任者(CEO)は11月の投資家向け説明会で、ファストフード業界全体で客層が変化していると説明した。米ロサンゼルス・タイムズ紙(LAT)によると、業界全体では低所得世帯からの来店が二桁%減る一方で、高所得者からの来店はほぼ同じ幅で増えているという。

 かつての常連客からは切実な声が聞かれる。ウィスコンシン州で4人の子供を育てるブレンダン・ベイバー氏は英タイムズ紙に対し、「フライドポテトのLサイズが5ドル(約780円)未満で買えなくなった。子供はみんなフライドポテトが欲しがるのに」と嘆く。インディアナ州で建設業を営むラルフ・セバーソン氏も「建設業や技能職はファストフードで生きている」と話すが、いまや価格を見るだけで店の前を素通りするという。

◆ビッグマック、実質で25年約40%高
 価格は明らかな上昇傾向にある。LATによると、2019年から2024年の間に、メニュー全体が平均40%値上がりした。

 タイムズ紙によると、ビッグマックは2000年に2.24ドルだったが、2025年には6ドルへと約3倍近くになった。インフレ調整後の想定価格は4.22ドルだが、実際の価格はこれを約40%上回る。

 マクドナルドは価格上昇について、牛肉価格や人件費の高騰を理由に挙げる。LATによると、給与支出は2019年から約40%増加し、食品などの費用も35%増えた。だが低所得層は、こうした理由に必ずしも理解を示せる状況にない。同紙によると、年収3万ドル未満(約470万円)かつ借家住まいであれば、家賃を払った後、月にわずか250ドル(約3万9000円)しか残らない。

◆かつての救世主「1ドルメニュー」はもう戻らない
 2000年代初頭の米マクドナルドは、1ドル均一の「ダラーメニュー」で人気を集めた。日本でも同時期、ハンバーガー59円などの施策を展開していた。

 だが、LATによると、現在こうした戦略を米マクドナルドは採っていない。インフレ圧力を受け、2013年には1ドル均一の「ダラーメニュー」は「ダラーメニュー&モア」と名前を変え、価格は最大5ドルの商品も含むラインナップになった。昨年には5ドルのセットメニューを投入し、今年1月にはフルプライス商品の同時注文で1ドル商品を提供する施策も始めている。

 さらに、英インデペンデント紙などによると、マクドナルドは物価高騰で客離れが進むなか、今年9月にはアメリカで割安セットの「エクストラバリューメニュー」も始めた。一方、タイムズ紙によると、こうした「お得なディール」の多くはマクドナルドのアプリのログイン画面の向こう側に隠れており、アプリ経由でないと利用できない。里親のベイバー氏は同紙に、アプリを「非常にユーザーに不親切」と評し「最良のディールは短期で終わってしまうし、アプリの利用を促進するためだけの存在になっている」と冷ややかだ。

 LATは、こうした価格改定や割引戦略の変化のなかで、かつて低所得層の味方だった1ドルメニューがインフレなどで維持できなくなり、低所得層の客離れが進んでいる様子を描いている。インデペンデント紙も、物価高騰で低所得層のアメリカ人がマクドナルドやファストフード全般から事実上締め出されている現状を報じている。

 低価格で親しまれたマクドナルドは、値上げと値引きのはざまで、低所得層をどうつなぎ留めるかという岐路に立たされている。

Text by 青葉やまと